アマゾンの狙いは家の「アンビエント・インテリジェンス」の完成
アマゾンは元々、アイロボットのルンバのようにタイヤで移動するロボットの開発に力を入れている企業である。すでに米国ではアマゾンの自律走行の配送ロボット「スカウト(Scout)」による宅配エリアが拡大しているし、傘下にはファシリティでの貨物移動を担うアマゾン・ロボティクス(Amazon Robotics)社もある。
家庭内へのロボット導入については、昨年(2021年)秋に発表され、現在、米国内で招待者限定により販売が行われている家庭用ロボット「アストロ(Astro)」が知られている。アストロの役割は人とのコミュニケーションと家庭内の見守りだ。(現在のところ)アストロはルンバのように掃除する機能もないし、家の中を適切なスピードで安全に自律走行できるかどうかも定かではない。安全に動くためのノウハウを蓄積したり、監視する場所を判断したりするためには、精細なホームマップを作り、活用・学習する能力が不可欠になる。
アマゾンはかねてから「アンビエント・インテリジェンス(Ambient Intelligence)」の提供を目指していると宣言している(Ambient:ぐるりと取り巻く、という意味)。「アンビエント・インテリジェンス」とはアマゾン自身の定義によると「複数の端末とサービスがAIを介して相互接続された環境」であり「AIがユーザーの環境の状態とユーザーの好みを理解し、ユーザーが必要なときに支援する」ことを目指す、という。
アマゾンの「複数の端末とサービス」については、場所を固定して動かないものには、AI音声アシスタントの「アレクサ」、2018年に買収したビデオカメラ付きドアベルの「リング(Ring)」、2019年に買収したメッシュWi-Fiルーターの「イーロー(Eero)」などがすでにある。
近い将来、ルンバからホームマップ機能を移植された、新アストロがリリースされれば、アマゾンの「アンビエント・インテリジェンス」の企ては一応完成を見ることになるだろう。
また、この事実はアマゾンだけでなく、買収される側のアイロボットにも大きな恩恵をもたらすはずだ。仮にアレクサ(AI音声アシスタント)やアストロ(コミュニケーションと監視)の機能が搭載されたマルチ機能のルンバが登場すれば、アイロボットは自社の顧客に対し、サブスク型のサービスプラン(例:音楽配信やホームセキュリティなど)を提供でき、結果、モノとしてのルンバの販売価格を戦略的に下げることも可能になるはずだ。
新ルンバをプラットフォームにしたサービスモデルは、モノづくりで力をつけた中国企業が容易に追随できるものではなく、アイロボットはカテゴリーイノベーションを成功させて新たな市場を寡占することも可能になるかもしれない。