社会が大きく変化する中、サステナビリティ経営の重要度は増す一方だ。多くの企業は、自社が社会にどう貢献していくべきかを考え直す必要に迫られている。セイコーエプソンでは2021年に長期ビジョンを見直した。新たな長期ビジョン策定の過程では、自社が本当にやるべきことについて再確認したという。その背景や思いを、同社代表取締役社長の小川恭範氏に聞いた。
社会全体の利益に目を向けた企業が結果的に生き残る
――セイコーエプソンでは創業当初から、現在のサステナビリティ経営につながるような取り組みに力を入れられていたそうですね。
エプソンは1942年、長野県諏訪地方で創業しました。自然に恵まれた環境で時計の組み立て工場を営んでいたことから、創業者は「絶対に諏訪湖を汚してはいけない。そして地域に受け入れられる会社でなければならない」という強い思いを持っていたそうです。
その思いを受け継ぐ取り組みで、私もよく知るものとしては、1988年のフロンレス宣言があります。1992年に日本国内、1993年にはグループ全体で洗浄用特定フロンの全廃を達成したことで、世界的にも先進的な取り組みとして評価されました。
ただ、こうした取り組みに力を入れているのは当社に限ったことではありません。歴史ある企業は、必ずと言ってよいほど社会全体の利益に目を向けた理念を掲げています。結局のところ、そうした理念を実践し続けることができた企業が、長く生き残っていくのだろうと思います。
私も2年ほど前に社長に就任した当初から、社員に対して、私たちの存在意義は社会貢献であると伝えています。そして、自分が社会に貢献し、その過程で得る貢献感を幸せに感じられるようになろう、と。売上や利益は、社会貢献を実践し続けるための手段としてあげていくものという位置付けです。
貢献感というと抽象的ではありますが、社会の変化とともに見直されつつある価値観だと考えています。私たちはこれまで、どちらかというと物質的・経済的な豊かさを求めて発展してきたかもしれません。しかし、これからは、精神的・文化的な豊かさの価値を、改めて考える必要があるのだと思います。