墨田区産業観光部産業振興課主査 吉川栄一氏と主事 河合祥平氏

 都心部の自治体は、地方に比べてSDGsへの取り組みが遅れているといわれる。しかし、都内屈指のものづくりのまち 墨田区では、2021年度の「SDGs未来都市」と「自治体SDGsモデル事業」に選定され、持続可能な社会づくりへの取り組みを加速していく予定だ。同区では、産業振興を切り口に“ものづくりによる「暮らし」のアップデート”を目指していく。区のアイデンティティーを継承するアップデートとは何なのか。墨田区の産業観光部産業振興課主査 吉川栄一氏、主事 河合祥平氏へ話を聞いた。

ものづくりのまちをSGDsで活性化させる

 産業分野のマスタープランに新たな視点を加えようと考えたのは、2019年度にSDGsに取り組む区内の事業者を集めたシンポジウムを開催したのがきっかけだった。そこで知った、未来都市とSDGsモデル事業へのエントリーを視野に、事業者たちとの新たなコラボレーションを進める計画を練り出したのだ。SDGsは持続可能性を高める取り組みだけに、人口減少の課題に直面している地方の方が敏感に反応し、都市部の遅れが指摘されている。そうした中で墨田区が推進に力を入れ始めた背景には、同区ならではの状況があった。

 墨田区は都内屈指の“ものづくりのまち”だ。全産業に占める製造業の割合が多く、印刷、金属加工、プラスチック、繊維、機械など多種多様な業種が集まっているが、約8割が9人以下の小規模事業者だ。江戸時代の瓦や伝統工芸に始まり、歴史的に見ても一貫してものづくりのまちであり続けている墨田区だが、近年では事業所数は減少傾向で、昭和40年代と比べると工場の数は5分の1程度に減っている。しかし、「ものづくりは墨田区のアイデンティティーであり、この土地はこれで発展してきました」と、吉川氏は墨田区とものづくりの必要不可欠な関係性を語る。

 暮らしを守り、仕事を守り、環境を守るのが行政の目的であり、目指す先は元からSDGsと重なっている部分が多い。区としての持続可能性を高めるために、アイデンティティーが切り口になるのは自然な流れだといえる。「事業の活性化や、技術継承の方向性の枠組みを、区として示せるのではないかと考えました」と吉川氏。そこで産業振興課がその取り組みをリードする役割を担うことになったのである。