デジタル化によって、私たちの仕事や生活は飛躍的に便利になったが、一方で、高齢者を中心に大量のデジタル難民が生まれてしまった。デジタル化によって自分でできることが増えるので、ITが得意な若い人たちのコールセンターなどへの問い合わせは減ったが、デジタル化に対応できない人からの問い合わせは逆に増えていく。社会の高齢化は、そうした傾向に一層の拍車を掛けるだろう。
さらなるデジタル化を進めていく上で、まずはデジタル難民を出さないための工夫が必要だ。高齢者に聞き取りやすい話し方を学ぶタブレット型模擬音声シミュレーションツールを開発するなど、高齢者との応対に熱心な株式会社TMJの事業統括本部 事業推進本部 HRM推進部 TMJユニバーシティの山田敬三氏に話を聞いた。
ノイズだらけに聞こえる加齢性難聴
「まずは、『ジェロトーク』を通じて、私の声を聞いてみてください」。そう言ってTMJ事業統括本部の山田敬三氏はタブレットで音声を再生した。TMJは、福武書店(現:ベネッセコーポレーション)のコールセンターが独立してできた会社で、現在はセコムグループの子会社として、さまざまなバックオフィス事業を手掛けている。TMJは2017年の第14回日本e-Learning大賞で「高齢者応対研修」eラーニングサービスの開発で厚生労働大臣賞を受賞している。
「私はTMJの山田です」と言っているはずだが、ジェロトークを通じると「ザザザ」というノイズにかき消されて聞こえない。これが加齢性難聴の人の聞こえ方なのだそうだ。
加齢性難聴とは、特別な原因はなく、加齢によって高音が聞こえづらくなって引き起こされる難聴のこと。日本老年医学会雑誌 (2012)によれば、60歳代前半では5~10人に1人、60歳代後半では3人に1人、75歳以上になると7割以上の人に加齢性難聴が起こるという。
ジェロトークは、加齢性難聴の人に聞き取りやすい話し方を学ぶタブレット型模擬音声シミュレーションツールだ。TMJと後述するオトデザイナーズとの共同開発で誕生した。自分の声を録音すれば、折れ線グラフと一緒に100点中何点といった指標が出てくるので、自分の話し方は聞きやすいのか、練習することで進歩したのかといったことを確認できる。
また、ジェロトークの中には「サンプル学習」、いわゆる手本も入っている。例えば、お客さま番号とか会員番号など数字にかかわるものを復唱するとき。A-3048なら、3048という、間違えてはいけない数字の部分を相当ゆっくり話している。それによって発話だけではなく、テンポも意識する必要があると分かる。さらに、それが加齢性難聴の人にどう聞こえるかも試せる。すると、プロがあれだけゆっくりはっきり話しても、やはりノイズが邪魔になることが分かる。かろうじて聞きとれるが、決してクリアではない。こうした厳しさも体感できる。