デジタル化とマクロ経済

 このような2021年の世界経済の経験は、デジタル化とマクロ経済の関係について、以下のような示唆を与えています。

 まず、デジタル化はマクロ経済にもプラスだということです。デジタル化は時に、「デジタル難民」や「デジタルディバイド」「競争激化」などネガティブなイメージを伴うこともあります。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響が続く中、比較的迅速に世界経済の回復が実現された背景には、やはりデジタル化の後押しがあったことは否めないように思います。もちろん、デジタル化には、それに伴う問題(例えば、データ独占に伴う問題や課税の問題)があります。これらについては、別途手当てしていく必要があるでしょう。

 一方で、デジタル化は、マクロ経済の負担を軽くするものではないということです。前述のように、2021年の経験は、デジタル化のもとでも、物価の上昇が時にかなり急ピッチで起こり得ることを示しています。デジタル化が自動的にインフレも抑制してくれるわけではなさそうです。

 当たり前のことではありますが、デジタル化を推進しつつ、同時にマクロ政策対応もしっかり行う国が、DX(デジタルトランスフォーメーション)の時代に世界経済をリードしていくように思います。

◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。