世界経済の回復傾向

 まず、マクロ経済の面から特筆すべきは、新型コロナウイルスがなお猛威を振るう中でも、世界経済は総じてみれば回復を実現してきたということです。国際通貨基金(IMF)によれば、2020年の世界経済は3.1%のマイナス成長となったのに対し、2021年の世界経済は5.9%のプラス成長となる見通しです。

IMF世界経済見通し(2021年10月公表)
資料:IMF

 これには前年比による計算上の寄与もあります。2020年のように経済が大きく落ち込んだ年の翌年に経済活動が同じ水準に戻るだけでも、前年比は計算上、前年のマイナス幅をやや上回るプラスとなるはずです。しかし、IMFを含め、主要国際機関の集計や分析によれば、2021年中、新型コロナウイルス前の2019年の経済活動水準を上回る水準まで経済の回復を実現した国も少なくありません。もちろん、個別にはなお大変な状況に置かれている分野や企業も多い訳ですが、それでも2021年中、新型コロナウイルス感染症という制約の中で、各国が経済活動水準を何とか建て直せたことは特筆すべきでしょう。

 この背景としては、デジタル技術の貢献もあって過去にないスピードで有効性の高いワクチンが開発されたことや、各国で多額の財政支出が行われたことなどが指摘できます。しかし同時に、サービス関連分野の消費がなお制約を受ける中にあって、デジタル関連投資の増加が成長率に寄与したこと、さらにはデジタル関連企業の収益好調や株価の上昇など、デジタル化が2021年の経済回復を後押しした証左は数多くみられます。

経済的パワー集中への警戒

 一方で、デジタルエコノミーの拡大が一段と進むもとで、各国の政策アジェンダにおいて、データを集積する一部巨大企業、いわゆる「ビッグテック」のパワーへの警戒感もさらに強まっているように思われます。

 新型コロナウイルス感染症には、対面を前提とする経済活動により多くの影響を及ぼす面がある一方、相対的にデジタルエコノミーのプレゼンスを高める面があります。例えば、買い物やコンサートに行くことが制約されると、ネットショッピングや動画配信の利用が増えるなどです。

 こうした中、中国では国内ビッグテック、とりわけアリババとテンセントに対し、独禁法や金融規制などを通じた牽制が強まっており、中国ビッグテックの株価はむしろ下落傾向を辿りました。また米国でも、ビッグテック企業の収益自体は総じて好調に推移する中、本年、バイデン大統領が市場競争を促進する大統領令を発出したり、独占禁止政策を担う連邦取引委員会(FTC)の委員長にかねてからビッグテックの規制強化を訴えてきた学者(カーン氏)が就任するなど、監視強化の動きが目立ちました。国際的にみても、G20やG7では、“Base erosion and profit shifting(BEPS:税源浸食と利益移転)”など、デジタルエコノミーの拡大に伴う課税の問題が取り上げられました。