デジタル化とインフレ

 また、2021年、マクロ経済の視点からとりわけ興味深かったのは、デジタル化が進行する中、世界的に物価の上昇傾向が目立ったことです。

出所:日本銀行、Haver、総務省

 この背景としては、一時的な供給制約などの要因も指摘されていますが、価格上昇が個別の品目にとどまらず、石油や銅などの資源価格や、小麦、牛肉など一次産品の価格が揃って世界的に上昇していることからみて、やはり、感染症対策としての大規模な財政出動が各国で行われたもとで、2020年以降抑制されていた民間需要の回復が重なったことが、原因として指摘できます。

出所:日本銀行

 かつては、「デジタル化が進む中では物価は上がらない」といった主張も聞かれました。例えば、デジタル化に伴う省力化が賃金の抑制につながるとの見方がありました。また、PCやスマートフォンなどのデジタル関連財は、技術革新を勘案した「品質調整」により、性能の向上が統計上は大幅な価格下落として表れやすく、これも物価上昇を抑える方向に働くとの見解も聞かれました。

消費者物価とパソコン・携帯電話(前年比、%)
出所:総務省

 もちろん、これらのデジタル化要因が物価上昇を抑制する方向に働く可能性は否定できません。しかし、全体としてのマクロの物価上昇を抑制できるほどのドミナントな要因になるとは考えにくいですし、2021年の経験はまさにこのことを裏付けているように思います。