
第10回(最終回)となる今回は、タイの製造拠点が今後、目指すべき方向性として「タイ製造拠点の存在価値を高めること」のポイントについて説明する。
タイ製造拠点の存在価値とは
タイ製造拠点は日本国内の代替製造拠点からアジアを中心とした製品供給の要所になってきている。また、製品供給を通じて雇用を創出し、タイ国の発展にも貢献している。
改めて考えてみると、日本企業の利益創出のためだけではなく、タイ国やASEANを中心とするグローバルの発展に貢献することこそがタイ製造拠点が存在する価値だと感じる。
タイ製造拠点には、日本国内の本社や工場に不足することを広範囲かつ高いレベルで補う役割を担いつつ、自立して独自に成長していくことが求められている。成長のベースには利益を創出し続けられる体質が必要で、これをいかにして保有するかが鍵となる。
しかし、この体質は短期間でつくられるものではない。これまでに述べてきた通り、日々の確実な取り組み(日常管理)と将来のあるべき姿を描いてそこに向かう活動(目標管理)の両輪を回して推進することで、これは実現できる。この体質を構築できていない企業は成長のための足元の課題として認識し、早期にその解決に取り組むべきである。
製造拠点改革の障害を打破して足元課題を解決
足元の課題解決とはいえ、タイ製造拠点の改革にはある一定の難しさがあることが予想される。筆者の経験からその障害は3つあると考えている。

しかし、これらの障害で改革が進んでいない(進められない)企業が存在していることも事実である。
特にやっかいなのが「本社の呪縛」だ。問題の多い製造拠点に対しては、どうしても日本からの手厚いサポートが必要になる。課題解決が進んでもこのサポートが続いているようであれば、いつまでもタイ製造拠点の意思決定が進まず、指示されたままの動きしかできなくなってしまう。
ある一定期間は有益なサポートだったとしても、時間の経過とともに改革の障害になる皮肉な結果を生んでしまうわけである。自立運営できる製造拠点を実現するには、改革への意欲やスキルを高めて障害を打破しなければならない。
存在価値を高める3つの方向性
タイ製造拠点の存在価値を高める方向性をどのように考えるかは難しい問題である。事業環境や事業特性の違い、自社を取り巻く状況などで、さまざまな存在価値の高め方が考えられるからだ。ここではラフスケッチとして、存在価値を高めるための方向性を下図に整理する。

製品供給から存在価値をより高める方向性として、バリューチェーンにおける機能発揮度を高めるよう開発、設計をタイ製造拠点に保有する、あるいはその範囲を拡大することが考えられる。例えば、既に開発機能をタイ製造拠点に保有しているとしても、一部の機能にどどまっていることがあるため、さらに広範囲に機能を拡大していくなどだ。
また、サプライチェーンの強化に貢献するには、調達力・物流力が重要であり、タイ製造拠点にグローバルな調達・物流機能を保有することで、ASEANや日本にまで貢献していくことも考えられる。
他の拠点への貢献という観点からは、圧倒的な量産の技術力を持ちつつ、グローバルに技術指導・提供を行うアジア地域のマザー拠点となる道もある。
この他にも全く新しい事業領域を生み出し、独自の成長路線を歩む道もあり得る。さまざまな方向性が考えられるが、どの道筋も短期で実現できるものではない。大切なのは、自らの拠点の進む方向性を定め、実現のための道筋を描き、早期にスタートすることである。
存在価値を高めるための処方箋
タイ製造拠点は自社や顧客への価値提供だけにとどまらず、"なくてはならない拠点""選ばれ続ける拠点"としての存在価値を高めることが求められる。そのために、さまざまな障害を乗り越え、目指すべき拠点像を描き、中長期にわたる腰を据えた取り組みが必須である。腰を据えて改革に取り組むには、リソースを中長期で確保し、そのリソースを最大活用し続けることが求められる。
タイ製造拠点でも日本国内同様、歩みを止めることは許されず、走り続けなければならない。走り続ける拠点こそが環境変化に適応し、高い競争力を有した存在価値の高い拠点になれる。
第10回(最終回)はタイ製造拠点が向かうべき方向性を考えた。近い将来、「日本や欧米に学べ」ではなく「タイから学べ」となるような製造拠点がでてくることを期待して本連載を終了したいと思う。
タイの製造拠点改革は現在進行形、かつ重要性が増している取り組みである。本連載がこの取り組みに関わる人に少しでも有益な情報が提供できていれば幸いである。

コンサルタント 角田賢司(つのだ けんじ)
生産コンサルティング事業本部
プロセス・デザイン革新センターセンター長
兼 デジタルイノベーション事業本部 シニアコンサルタント
IEをコア技術として収益向上のコンサルティングに取り組んでいる。自動車(部品)、化学プラント、樹脂成型、建材、食品等、多業種で収益向上の支援を実施。現場の生産性向上、品質向上、調達コストダウンや在庫削減等複数テーマを同時に展開、マネジメントの支援を行う。近年はタイ・中国等の製造拠点支援として生産性向上や品質向上の成果実現と併せ、マネジメントの仕組みづくり、ローカル人材育成を実践






