18の原則

 バーゼル委員会が提案している原則を見ていきましょう。第1原則からから第12原則は銀行に向けられ、第13原則から第18原則は各国の監督当局に向けられています。概略は、以下の通りです。

国際的な議論への対応

 これらの原則案は、現状では概括的な内容であるように見受けられます。しかし、以下の点には留意しておく必要があります。

 私の経験に照らしても、国際的な議論は「先手必勝」になりがちです。日本の場合、「提案」というと、「内部で徹底的に詰めてから出す」という傾向が強いように思います。しかし、交渉上手な国や国際機関は、「生煮え」であっても先に提言を出してしまい、主導権を取ってから、その後外部からの意見を聞いて修正する傾向が強いように思います。日本としても、このような国際機関からの「意見募集」型の提言には十分注意し、意見があれば言い残す所なく言っておくべきですし、「原則」の今後の運用のあり方などを巡っては、自ら提言していくことも考えるべきでしょう。

 また、「自国の基準を国際基準に」といった「スタンダードの取り合い」を巡る競争はただでさえ熾烈ですが、気候関連は将来の産業の主導権争いとも関わることから、特に国際間での競争が先鋭化しやすい分野です。日本としても、自らの意見が反映されない形でスタンダードの形成が進むことのないよう、積極的に議論に関与していくことが大事です。

 さらに、「2050年までのカーボンニュートラル達成」というスケジュールを考えれば、気候変動の問題は今後少なくとも約30年間、世界の主要アジェンダであり続けるでしょう。この中で、現在は「プリンシプル・ベース」となっていても、これが徐々に「ルール・ベース」の様相を強めていくことがないか、注意していく必要があるでしょう。

◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。