銀行規制と気候問題

 自然災害が企業経営に大きな影響を及ぼし得ることは、今に始まった話ではありません。この自然災害リスクには気候変動だけでなく、例えば地震なども含まれますが、バーゼル委員会があえて「気候関連リスク」に焦点を当てた原則案を出すに至った背景としては、やはり気候変動問題への国際的な関心の高まりが挙げられます。

 今や日本を含む多くの国々が、2050年のカーボンニュートラル実現に取り組むことを国際公約として掲げています。そのための技術開発やインフラ整備、エネルギーの切り替えなどには莫大な資金が必要です。2030年には、これらに向けた投資の規模が約130兆ドルに達するとの見通しもあります。したがって金融の役割はきわめて重要です。

 バーゼル委員会の言う「気候変動リスク」には、企業経営への自然災害などの影響だけでなく、「脱炭素化などの潮流の中で企業のビジネスモデルが立ち行かなくなるリスク」なども含まれています。すなわち、銀行の資金仲介自体を脱炭素化と整合的な姿にしたいとの意図も込められているといえます。

 また、脱炭素化やグリーンファイナンスに付き物の問題が「グリーンウォッシュ」です。単にセールスや資金調達などのために、実際には環境への貢献が乏しい活動を環境フレンドリーと喧伝する向きも増えています。この中で、真に「グリーン」なプロジェクトを見抜き、これに資金を割り当てていく機能が、金融に求められています。

 さまざまな「リスク」を評価しながら資金を割り当てていくことは金融の本源的な役割です。気候変動への対応は「リスク」の内容を著しく複雑化させる面がありますが、金融がこのような役割を果たせなければ、結局、脱炭素化に向けた資源配分を統制経済的なやり方に頼らざるを得なくなります。そうなると、脱炭素化は実現できても、経済の活力が失われかねません。