エンゲージメント向上のカギは『共感のマネジメント』
利他的な行動のもう1つのパターンとして、見返りを求めない場合がある。例えば、自分の家族や恋人のために尽くす、守るといったことがそれに当たる。これらは家族愛や恋愛といった感情がその原動力になっていると考えられるが、では会社や職場に対してはどのような感情が利他的行動につながるだろうか。
その答えは“共感”にあると考えられる。「この会社や職場はどのような存在なのか」「どのような役割を果たしているのか」「どのような想いで運営しているのか」、そうしたアイデンティティを明確にすることで、その在り方に共感した従業員は、自然とその実現や成長、発展に向けて行動するのである。
よって企業側としては、その共感を促進するための取り組みが必要となる。例えば、エンゲージメントの向上策として会社の方針やビジョンを示すことがよく取り上げられるが、これもただ伝えればよいわけではない。目的はあくまで共感を促すことなので、これまでと大差のない形だけの方針やビジョンを示しても意味がない。一見、中身がよくても部下が頭を悩ませて作成し、経営層の想いが全然感じられないものも同様である。たとえシンプルでも、伝え方が拙くても、心からの想いを伝えることが重要である。
職場レベルでいえば、上司と部下の1on1ミーティングなどが有効だが、ここでも工夫が必要である。通常、1on1は部下の育成を促進する目的で行われることが多いが、その場合、部下の話を上司が聴くことが中心となる。そうなると部下に対して上司が共感することはできても、上司(つまり職場)に対して部下が共感する機会が少ない。そこで、こうしたときには教育・育成だけでなく、職場運営に関する話題も扱ってほしい。職場を今後、どうしていきたいかを上司が示したり、一緒に考える機会とすることで、部下の職場に対する共感を促すのである。
このように意図的に共感の場をデザインし、巻き込み、促進する。つまり、共感をマネジメントすることで、従業員エンゲージメントは高まっていくと考えられる。
以上、今回は従業員のエンゲージメントについて取り上げた。昨今のリモートワーク拡大の中で、エンゲージメントがさらに低下傾向にあるという声も聞こえてくる。日本企業が今後も世界で存在感を発揮していくためにも、働く人々がイキイキと働ける社会になることを願う。
【引用・参考文献】
State of the Global Workplace - Gallup Report (2017)
コンサルタント 岡野紘二 (おかの こうじ)
ラーニングコンサルティング事業ユニット
組織開発ソリューションセンター チーフ・コンサルタント
入社後、業務改善コンサルタントとして、製造現場や開発現場を対象に、コスト削減や生産性向上に取り組む。その中で“やり方”を変えるだけでなく“人の意識や行動”が変わる後押しの重要性を実感し、組織開発や人材教育に軸足を移す。社員が前向きに働ける職場づくりを目指して日々活動中。特に人の意識や気持ち、上司と部下・仲間同士の関係性にフォーカスし、今を変える一歩を踏み出す後押しをしている。 ・社団法人日本コーチ連盟コーチ養成プログラム応用コース修了 他多数