前回は経営戦略と人材戦略をつなげる「タレントマネジメント」について述べた。第4回となる今回は、昨今にわかに注目度が高まっている「従業員エンゲージメント」(以下、エンゲージメント)について取り上げる。

 エンゲージメントとは、従業員と会社の共生的な関係性を表すものである。少子高齢化やキャリア観の多様化が進む中で、優秀な人材の確保や活躍の促進は重要なテーマであり、エンゲージメントはこれらに対する1つの解として捉えられる。このエンゲージメントを高めるためのポイントは、「共感のマネジメント」にある。

エンゲージメントは持続的な企業価値向上に寄与する

 一般的にエンゲージメントは「従業員の会社や仕事に対する愛着や信頼、貢献しようとする意欲」を指す。一方で、そのような感情は会社と従業員が中長期に渡って良好な関係を築いてきたからこそ生まれるものであることから、「従業員と会社が双方の成長・発展のために積極的に貢献し合う関係性」こそがエンゲージメントであると捉えることもできる。

 よく似た概念として従業員満足やロイヤルティなどがあるが、従業員満足は会社や職場、上司や仕事に対する従業員視点での評価であり、双方の成長・発展という発想はない。

 ロイヤルティは従業員が自社に対して持つ忠誠心や愛社精神のことであるが、このベースにあるのは会社を主、従業員を従とした主従関係である。会社は自らの成長・発展のために注力し、従業員も誠心誠意尽くす。これは終身雇用を前提としていた時代は成立したが、働き方が多様になった現在ではそぐわなくなってきている。

 エンゲージメントは従業員と会社が対等な立場であり、お互いが相手のために自ら行動を起こすという点で新しい概念なのである。エンゲージメントが注目されている背景として、少子高齢化による生産年齢人口の減少、働き手のキャリア観の多様化が挙げられる。エンゲージメントの高い社員は欠勤率や離職率が低いという報告もあり、人材の確保・定着化に危機感を抱いている会社としてはエンゲージメントは無視できない存在になっている。

 加えて日本人のエンゲージメントの低さも大いに関係がある。米ギャラップ社の調査によると、日本はエンゲージされている(熱意あふれる)従業員の割合が6%と100以上の調査対象の中でワースト10に入っている。

 頭数をそろえるだけでなく、従業員の活躍を促進していかなければ、変化の激しいこの時代を生き残っていくのは難しい。持続的な企業成長のために人的資本の充実を図るには、従業員のエンゲージメントを高めるための取り組みが必要不可欠になりつつある。