デジタル基盤の米中二極化と中国の向かう先

 近年、巻き起こる「チャイナイノベーション」には好循環が生まれています。その要因には「グランドデザイン(戦略・政策・規制)」「地域間競争(外資企業誘致→ハイテク企業誘致→人材誘致)」、そして「民間の活力(民営企業、起業ブーム、起業/企業家精神の育成)」の3つがあると私は考えています。

 2019年の米国経済誌のフォーチュン誌による世界企業番付「フォーチュン500」では米国企業121社、日本企業52社に対し、中国企業129社がランクイン。初めて米国を上回りました。2005年が16社だったことを考えると、成長著しいと言えると思います。また、米国調査会社のCB Insightsによる「世界のユニコーン企業」(2021年1月時点)においても、米国発249社、日本発4社に対し中国発は126社。米中が全体の約7割を占めました。

 世界のデジタル基盤は「米国集中」から「米中二極化」へと移行し、両国のデジタル優位性の争いがより激しさが増しています。

 これから中国はどこに向かうのでしょうか。長期的には経済成長の鈍化が避けられない中、やはり新たな成長エンジンが必要となります。

 今年から始まる「第14次5カ年計画」(2021〜2025年)の主要タスクは「数字中国(デジタルチャイナ)」の実現です。今年3月に行われた全人代(全国人民代表大会。日本の国会に相当)で挙がったキーワードでもあり、中国政府がいかにその実現に本腰を入れているかが明らかになりました。

 それらの政府方針によってデジタルエコノミーの規模が拡大し、新たな成長の原動力になっています。最先端技術分野での蓄積も進んでおり、特に、スピード感を持った社会実装で世界の先頭に立つことを目指しています。

 中国が目指すデジタル社会の青写真は、利便性・効率性・安全性の高い社会の実現です。デジタル技術でリープフロッグ(一気に発展すること)を達成し、GDPでは捉えきれない豊かさと幸せを獲得しようとしています。

 他方でもちろん、課題も山積しており、中国ではテクノロジー活用に楽観的な人が多いのですが、昨今はプライバシーを巡る世論の分断、あるいは監視社会への批判、テクノロジー依存の弊害も露呈しています。中国政府もその点に問題意識を持って社会実装を進めています。

新たに台頭する次世代プラットフォーマーの存在

 ここ数年、中国政府が打ち出している具体的なキーワードをまとめてみると、「ABCD5G」(AI、Blockchain、Cloud、Data、5G)がけん引していることが分かります。

 特に「新基建」(ニューインフラ、デジタルインフラ)は、昨年のコロナ禍においては経済対策・景気刺激対策として打ち出されましたが、もう一つの隠れた目的として、経済社会のデジタルシフト加速がありました。5G、データセンター、AI、産業インターネット・IoT、超高圧送電システム、高速鉄道・都市間鉄道、新エネ車の充電スタンドの7つを重点対象分野としており、これから投資拡大が見込まれています。

 中国におけるプラットフォーマーといえば、Baidu(バイドゥ)、Alibaba(アリババ)、Tencent(テンセント)、HUAWEI(ファーウェイ)で構成される“BATH”が有名です。これら中国プラットフォーマーの成功要因には、その背景として、トライ・アンド・エラーを許容する緩やかな規制の導入、あるいは巨大な国内市場との激しい競争での技術力の向上・ノウハウの蓄積が存在します。

 また、多くの大手プラットフォーマーはコア事業を固めてから多角化にシフトしますが、彼らは常にエコシステム間の競争を意識して、多角化戦略を進めます。次なる戦略に軸足を移す経験値も豊富で、近年はBtoBビジネスや海外進出にシフトしています。この他にも、次世代プラットフォーマーとして“TMDP”と呼ばれる5社も台頭してきています。