ビジョンと社会・顧客課題を統合し、自社の競争ストーリーとして展開する
最後に、先述の3つのプロセスを踏む際に押さえたいポイントを簡単に紹介しよう。
①ビジョン展開においては、「キーワード化」「ビジュアル化」により、メンバーの共通言語をつくりながら進めることが重要である。
「キーワード化」とは、抽象的なビジョンを構成要素に分解し、構成要素ごとに求める状態を定義する、ということだ。ネスレの方針を借りるとするならば、「食」はコーヒー、「食の持つ力」はコーヒーを通じた団らんの場の創出、「すべての人々」は農業生産者やまだコーヒーを消費できていない地域の人々、「生活の質」とは農業生産者にとっては収入水準であり、コーヒーを消費できていない地域の人々にとっては水資源へのアクセス、となるだろう。
「ビジュアル化」とは、キーワードとして定義した内容を「絵」として可視化し、目指す社会像を明確にすることである。
②外部環境予測では、「バリューチェーンの棚卸」「外部環境要因の設定」が重要である。
「バリューチェーンの棚卸」は、原材料生産⇒調達輸送⇒開発設計⇒製造⇒販売⇒消費⇒廃棄まで製品LCで考える。
「外部環境要因の設定」は、サステナビリティの3本柱である環境・社会・経済の視点で要素を設定することが必要である。代表的な要素では、環境は気候変動・資源・生物多様性、社会は法規制・人口動態・消費者価値、経済は業界動向といったものが挙げられる。このように双方ともに網羅性を確保した検討を心掛けたい。
③ストーリー構築では、「ストーリーの強さ・太さ・広さ」を意識する。
強さとは、XがYを可能にするという施策ごとの因果関係の強さのことである。太さとは、施策同士のつながりの数の多さであり、1つの施策が複数の施策につながっていく、その複雑性の高さのことである。広さとは施策のつながりの長さであり、長いほど他社からの模倣困難性が高くなる。
従って、競争力を確立するためには、この強さ・太さ・広さのあるストーリー構築が鍵となる。
SDGsはカバー範囲が広く、アウトサイド・インを軸とするだけでは、リスク回避・価値創造が混合しての事業活動となり、SDGsはコスト高、やリスク低減ばかりで窮屈というイメージに陥ってしまうだろう。このような状況を脱するためにも、ビジョンと社会・顧客課題を統合し、自社の競争ストーリーとして展開することを大事にしていきたい。
コンサルタント 大野晃平 (おおの こうへい)
生産コンサルティング事業本部
プロダクション・デザイン革新センター
コンサルタント
環境省 地球温暖化防止コミュニケーター。入社以来、製造業・農林水産業における現場の生産性向上を主軸に中小企業における収益改善のコンサルティングを行っている。 近年では、食品業界を中心に、農作物の栽培・出荷から食品製造での調達・出荷物流まで、フードバリューチェーン各所で幅広く生産性向上・コストダウンによる収益貢献支援、持続可能な経営実現に向けたSDGsビジョン 策定・実行支援を推進している。