2009年ソニー株式会社入社。R&Dでデバイス開発に従事した後、同僚と社内新規事業提案制度を利用してライフスタイル製品を立ち上げ。2016年退社後は、フリーランスとして活動し、3 年で50 の新規事業プロジェクトを伴走し、近年は社会課題のテーマに積極的に参画。自身も婦人科系疾患や流産、不妊治療経験を経て、患者が治療を体系的に理解するための形式知化、治療のデータエビデンスへのアクセサビリティに課題を感じ、患者に寄り添うサービスを作りたく本事業を企画。東京工業大学大学院理工学研究科物質科学専攻修了、工学修士。

「cocoromi」は不妊治療における情報を当事者自身が蓄積し、活用できるデータベースサービス。従来の不妊治療の課題をデータの力で解決したいと、vivola 角田夕香里氏が2020年に立ち上げたものだ。cocoromiが目指すことと、さらにその先に見ている未来について聞いた。

きっかけは「客観的な情報が欲しい」という自身のニーズ

 不妊治療はまだまだセンシティブな領域で、当事者が治療を受けていることを周囲に話すことが少なかったり、周りもタブー扱いしてしまうため、当事者以外は情報に接することが圧倒的に少ない。角田氏自身、不妊治療を始めた際に感じたのは"情報弱者になったような感覚"だったという。

 多くの場合、自分の状況を把握する意味で、どういう治療をすることになるのか、費用はどれくらいかかるのか、似た条件で同じような治療を行っている人はどのくらいの期間で成功するのかを知りたいと思うはずだ。しかし、そもそもの情報がない。あったとしても、ブログやInstagramなどSNSで交わされる属人的な情報で、角田氏が求めていたのはもっと客観的なもの、治療データとして扱える情報だった。

 そこで、自分で集めていくことになる。Instagramを見ると、「#妊活アカウント」「#妊活記録」などのハッシュタグで自身の検査データをアップしていたり、タグで検索しながら、自分と似た環境で妊活をしている人を探すというユーザーの行動がある。そうした情報を手元のExcelでデータ化していったのだ。最初は自分のためだけに、300人分くらいの治療データを収集し、そのデータを見ながら次にどのような治療をしようかとはじき出していた。そのことをSNSで発信すると大きな反響があったという。

角田 もちろん、診療行為はできないのですが、ただ、300人のデータから、こんな治療をされている方がいるとか、年齢や子宮内膜症といったような疾患で引いてみると、こんな治療をして成功しているようです、などと発信していったときに、私も見てほしいみたいな形で反応がありました。それであれば、きちんとシステムに落として、皆さんに届くような形でしっかりサービスを作りたいと思って、やり始めたという感じです。

 Instagram上で点として存在する情報を集めて、データ化することで参照可能な形にする。そこには角田氏の明確な意図がある。治療はもちろん、医師とともに進めていくが、医師と患者という関係ではどうしても情報の非対称性が生じる。自分がどういう治療を受ければいいかを客観的なデータで判断したい、と。

 不妊治療に関する相談プラットフォームなど、心のケアをサポートするサービスや、自分のデータを記録していくサービスは既に世の中にあったが、欲しいのは、年齢や疾患、治療履歴、検査内容・検査値などさまざまなパラメーターを持つ大量のデータ群の中から自分に合ったものを抽出し、客観的な情報として届けてくれるというサービス。角田氏は当初、このアイデアをリソースのある大手企業に持ち込んだが、ニッチ過ぎる、スケールしないのではないかと、難色を示されたという。ただ、生殖医療を専門とする齊藤英和先生という理解者との出会いもあり、それなら自分で・・・となったのが、サービスを立ち上げた経緯だ。