日本の生殖医療にはそもそもの"分析できるデータ"がない

 今、日本で不妊治療を受けている患者は50万人いるといわれる。「不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は5.5組に1組の割合」という数字もある(国立社会保障・人口問題研究所の「2015年社会保障・人口問題基本調査」による)。

 しかし、一方で日本の生殖医療は非常に成績が悪い。2016年に発表されたデータでは、グローバルにみても日本は体外受精の件数が最も多いにもかかわらず、採卵当たりの治療成績でいうと6%。これは世界平均の20%に対して、非常に低い値だ。その背景として、角田氏は、日本の女性が治療を開始する年齢が高過ぎることも大きな1つの要因だが、情報がしっかり伝わっていないこと、日本の生殖医療の現状をしっかり分析できるデータベースがないところも課題だと捉えている。

角田 例えば、アメリカには生殖医療に関する詳しいデータを集めている第三者機関があります。アメリカの仕組みがどうなっているかというと、一般不妊といわれるタイミング法や不妊治療の最初のステップとして行われる治療はかかりつけ医が行うことが多く、そこからステップアップして体外受精までやろうとする場合は総合病院に行って行う仕組みになっています。日本よりも病院数が少なく、その総合病院のデータを第三者機関がデータベースとして集めています。

 日本は非常にもったいない。日本にもデータがあるはずなのに、詳細な治療データは集められていない。そのため、うまく治療のガイドラインが決まっていないところがありますし、自費診療ということで患者は情報弱者になってしまい、患者さんの選び方次第で結果が変わりかねない状況になっています。日本の医療技術が低いわけではありません。日本の胚の凍結技術も高く、日本独自の技術もあるので、決して低いわけではない。ですが、個々の患者に最適な治療という部分でまだ余地があると考えている。

 高額な自費治療ならより自分に最適な治療が受けられると思ってしまうところだが、結果にある程度、確率が介入する点も難しい。例えば、美容整形であれば、きれいに二重施術ができる、鼻筋が通せる、という医療技術と結果の関係が分かりやすいが、不妊治療の場合は、治療を最適なものにしたとしても、どうしても確率の問題という壁がある。着床のメカニズムであったり、まだまだ生殖医療の研究が進んでいかないと越えられない壁だが、角田氏は、そこにたどり着くまでもまだまだ最適化されていないところがある、データをもって言えることはたくさんある、と言う。

 サービスを作って当事者がデータを活用できるようになれば、それで終わりではなく、vivolaのゴールは不妊治療の最適化にある。実際、当初は産婦人科の医師たちに正面から「データ分析をさせてほしい」とお願いしていたというが、そこで突き当たったのは、医学と工学におけるデータの捉え方の違い。医学の世界では母集団の数を工学と同じように担保するのは大変だし、患者の背景情報等の条件をそろえるのは非常に難しい。

角田 やはりここはビッグデータがすごく効いてくる領域だと思うので、たくさんのデータを集めて新しく言えることがあるのではないかというのは、いろいろな先生方にご相談をさせていただきました。最初は難しい反応を示す先生が多かったですが、サービスとして作って、患者さんが使ってくれているアプリを見せていくと、先生方も少しずつ興味を持ってくださるようになって。最近、お会いする先生方からは、うちの病院のデータも分析してみて、と言われるようになりました。

 追い風になっているのは、不妊治療の保険適用を拡大しようという流れだ。現在、2022年度からの導入を目指し、自費診療となっている体外受精などの高度な治療を保険適用の対象にする議論が進んでいる。

 角田氏は、保険適用となれば、ガイドラインの順守とある程度の結果を出すことが義務として課されるのではないかと指摘する。となると、同じような治療を、成果も出ないまま、何度も繰り返している病院は残っていけなくなる可能性もある。つまり、医師の側にとってもデータ分析が重要になってくるわけで、治療の経験則に加えて、不妊治療のデータベースを見ながら、「こういう治療を2回して失敗した患者さんが、3回目にどんな治療をしたら成功に近づくのか」を考えるようになる。最終判断はもちろん医師の判断になるが、判断の一助にはなるはずだ。