不妊治療の課題は「リテラシー」と「仕事との両立」

 現在、cocoromiが提供する機能は大きく3つ。①自分の治療の記録、②統計データから自分と近いもの(同質データ)を表示する、③コミュニティ だ。まず、会員はアカウント登録し、自身のデータを入力していく。ちなみに、病院名は登録するが、アカウントと本名のひも付けはしていない。

20代から40代のデータを元にした統計データから、治療期間、治療費用、排卵の回数、移植の回数などの分布図を見ることができる。また、同質として定義する項目が一致するカップルをデータベースから拾ってくる。つまり、統計データとは別に自分の近い条件の人の情報を比較して見ることができる

 不妊治療の課題として、まず患者のリテラシーの問題がある。不妊治療は基本的に自費診療で進んできた、ある種、特殊な領域。内科や外科のように(保険適用の範囲であれば)どの病院に行ってもある程度は同じレベルの医療が受けられるという世界ではない。つまり、病院ごとに治療方針や治療費用が異なってくる。リテラシーが低い状態で不妊治療を始めてしまうと、自分に合わない治療を続けてしまうことにもなりかねない。そうした意味で、患者の立場で最初に病院を選ぶためのリテラシーも必要だし、自分の治療計画を判断するためのリテラシーも必要となる。

 そうでないと、知識が全くない中で医師に言われた治療を理解しないまま自費診療で数百万円という金額を支払っていくことになる。しかも、体外受精の成功率はまだ35歳で20%程度の医療行為であり、最終的には確率の話になってしまうもの。だから、患者自身のメンタルケアとしても知識を身に付けることが重要で、自分が何の治療をしていて、それがどれくらいの確率の治療なのかを知ることで、治療に対する覚悟が違ってくるし、結果の受け止め方もかなり異なってくる。

 cocoromiでは会員自らが検査結果を入力する。最初は知識がなくても、入力工程を通し、検査データの意味を考えたりすることで徐々にリテラシーを身に付けていく。また、同士が交流できるようコミュニティ機能を用意することで、リテラシーの底上げ、知識の循環を狙っている(ただ、現状、日々の入力負荷がかかっていることは確かで、そのあたりは入力に関するインセンティブ設計に一工夫入れることを考えているという)

 ここで気になるのが、検査結果など多くは病院側で管理し、患者は自由にできないのではないかということだが、この点、不妊治療の場合、自費診療のため、クリアできている部分が大きい。不妊治療の初診で行う検査は1年以内であれば転院先でも使えるなど、費用的にも身体的にもなるべく負荷を減らす努力がされている病院も多いという。

 もう1つ、不妊治療の課題として挙げられるのが、仕事との両立だ。治療期間が1、2カ月であれば通院頻度が高くても、なんとか我慢ができるかもしれない。だが、どうしても不妊治療は長期化する。実際、仕事と両立できず、不妊治療をする2割の人が退職しているという。vivolaが把握しているデータでも平均25カ月間の治療で成功という状況で、5年、6年続けている人も多い。そして、もちろん、成功しないまま不妊治療から卒業していく人もいる。角田氏はその点においても、データできちんとエビデンスを伝えるべきだとする。

角田 高齢の芸能人が出産しているニュースを見てしまうと、45歳でも普通に妊娠できるのだなと思ってしまうかもしれません。しかし、年齢が高くなると、残念ながら体外受精の成功率は本当に低い。45歳になると一桁の数字になってきます。うまくいっているのは、本当にレアケースです。90%の人は泣く泣く卒業されているということも、その事実をしっかりデータとして伝えていかなくてはいけないと思っています。覚悟と、そしてこれだけの費用と期間、労力をかけて自分は治療しているのだということも認識していただく。まずは、そのためのベースをつくりたいと思っています。

 その上で、判断の1つに使っていただく。例えば、排卵を促す卵巣刺激法には大きく分けると低刺激と高刺激の2種類がありますが、このクリニックでは低刺激法しかやらないけれど、同質データで見ると高刺激の方が自分には合っているのではないかと分かったりします。じゃあ、転院するかどうか先生に相談してみよう、となるわけですが、ここまでにはまだ2ステップはあり、まずメンタルヘルスをケアするとことができ、ご自身の気持ちが整って初めて、データ活用の段階になるかなと思っています。