生殖医療とAI、急速に増えるフェムテックのプレイヤー
既に生殖医療の分野においても、従来は人間の経験則が必須とされてきた部分にAIが入ってきている。例えば、「受精卵(胚)の培養」。体外受精でできた複数の受精卵(胚)のうち、どの胚を優先的に移植する(子宮に戻す)かは胚のグレードにより選別するが、このとき、用いるのが胚の形態評価だ。具体的には、胚培養士が目検で胚の形態の良し悪しを評価し、良いグレードの胚を子宮に戻すというフローになるが、この部分に機械学習による画像認識が導入され始めている(例えば、コーネル大学の研究チームが開発した「STORK(コウノトリ)」は培養士による評価より高い精度で胚のグレードを判別できるという)
角田 良い胚の画像認識というのが今のトレンドですが、メインのプレイヤーはどちらかというとアメリカやヨーロッパに多いですね。医療機器はやはりそちらの国の方が強いので。ドイツの医療機器メーカーが作っている培養器にももうAIの機能が付いていて、顕微鏡で自動的に育ち方も記録しながら胚のグレードを選別できる。これは日本にもかなり入ってきてはいます。
ただ、私が着目しているのはその手前です。画像認識で良い胚、悪い胚を分類できるようになってきているので、そのデータとひも付け、良い胚を作るためにどんな治療をするのかをデータで見極められるようにしたいと思っています。良い胚を作るまでの医師の細かい処方のチューニング、その結果としてのホルモン値や採卵、受精、培養の情報を分析しています 。不妊治療における個別医療の道に、少しでも可能性を示せるよう、日々切磋琢磨しています。
実際、日本のフェムテックは10年遅れているといわれるが、この半年でも関連事業を手掛ける企業はおよそ50社増。更年期や生理・PMSなど、小さなカテゴリーごとにたくさんのプレイヤーが出てきている。
法規制の問題もあるが、この点は「フェムテック振興議員連盟」など野田聖子氏を中心とした組織で議論が進んでいる。「吸水ショーツ」など新たな製品を販売する上での扱い、例えば、ナプキンと同じように医薬部外品にしないと経血の給水量がどれくらいかなどをCMで言えない。そうした、これまでなかったカテゴリーでプレイヤーたちがしっかりアピールできるように法規制を整えていこうとしている。
だが、角田氏がここで指摘するのは表面的には受け入れていても、真の意味で多様性を重視しない日本のカルチャーをどう変えていくか、だ。例えば、企業の福利厚生として不妊治療をメニューに入れようという話をしても、「個別のニーズに関しては不公平感が生じてしまうから導入できない」となってしまう。多様性の議論で重要なのは「それぞれの違いを認める、受け止めること」だけではないはず。会社の中には、介護、育児、結婚、妊活と、さまざまなライフステージにいる人たちがいるわけだから。
角田 やはり不妊治療を福利厚生の中に入れると、妊娠する、子どもを持つことを会社が推奨していると思われる、と。何かあったときのリスクが先に出てくるので、不妊治療をしている方の思いであったり、そういうアンケートを社内でとりましょうという次のフェーズに行きたいんですが、話がそこで止まってしまうところはあるかなと思います。うまく、マインドセットというかカルチャーを伝えられるといいと思っています。
vivolaでは、企業などにもしっかりリテラシーを導入していこうと、生殖医療分野の医師らと連携し、企業向けの啓発コンテンツを作っている。生殖医療の適齢期はあるという前提で自分のキャリアをどう描くかをしっかりと伝えていかないといけない、と。また、当事者以外の人たちに向け、不妊治療で何をやっているのか、どうしてこんなに会社を休まなければいけないのか、理解を促す動画もシリーズで進めている。
コロナ禍で問題として顕在化した「生理の貧困」もその一例だが、これまで女性特有の問題としてパブリックに議論されることがなかったこうしたトピックが明るみになり、議論されるようになったのは、少しずつでも進んできたといえるだろう。