現場の実態は自分のマネジメントを映し出す鏡である
あらためて組織のマネジメントについて原点的に考えてみよう。
R&D部門に限らず、マネジメントを主業務にする組織のマネジャーになるということは、仕事の対象が"人"と"組織"になるということだ。担当者は研究テーマの遂行が仕事だが、マネジャーは仕事の対象は、技術でも商品でも設備でもなく、R&D業務を担う人・組織である。ドラッカーが「マネジメントは人を通じて成果を上げること」と説くように、マネジャーには人・組織についての洞察力や働き掛け力が求められる。
ところが、R&D部門で長く技術や製品を相手にし、研究者・技術者の道を歩いてきた人の中には、マネジャーに昇進した後も人・組織が仕事の対象だと思っていない人が少なからずいるように見受けられる。
「やる気のない奴が多くて困るんだよね」などと、自分の預かっている人・組織の問題を他人事みたいに言う人もいる。「うちの組織はコミュニケーションが悪くてね」と嘆いている人は、どこか心の中では「メンバーに恵まれていないな。こちらから何も言わなくても相談ぐらいしてきてよ」と思っているような気さえする。
自分を不遇なマネジャーと感じ、貧乏くじを引かされた役回りだと思っている、ある種の被害者意識をもっているマネジャーもいる。そう思いたくなる気持ちも分からないではないが、マネジャーたるもの、人・組織から逃げてはならないと思う。
マネジャーは現場の一人一人に働き掛けることができるものだ。しかも、その声掛けはいわゆる"作業指示"ではなく、研究開発の実務、つまり考えたり議論したり実験したりという思考業務について対話・議論をすることだ。
つまり、マネジャーの現場メンバーとの接し方、議論・対話の内容とその頻度が、今の現場の実態を形成している大きな要因となるのである。「いつも無理な仕事を押し付けられて、できなかったら、叱責される」などと現場が感じているのは、おそらく、そういう接し方をマネジャーがしてきたためであると思う。
一方、「仕事を通じて自己成長を実感している」と自信を高めている現場は、マネジャーが適切に激励をしてきている。現場の実態はマネジャーの姿勢や行動を映し出す鏡だと思うべきなのだ。
マネジャーの任を担う人は、まずこのことを強く認識していただきたい。
コンサルタント 塚松一也 (つかまつ かずや)
R&Dコンサルティング事業本部
シニア・コンサルタント
全日本能率連盟認定マスター・マネジメント・コンサルタント
イノベーションの支援、ナレッジマネジメント、プロジェクトマネジメントなどの改善を支援。変えることに本気なクライアントのセコンドとしてじっくりと変革を促すコンサルティングスタイル。
ていねいな説明、わかりやすい資料をこころがけている。
幅広い業界での支援実績多数。