民間発行デジタルマネー対応の4類型

 このペーパーでは、民間によって発行されるステーブルコインへの規制監督上の対応として、4種類のアプローチを提示しています。

 一つ目は「銀行モデル」(Bank Model)です。すなわち、ステーブルコインを発行する主体には「銀行」になってもらう(すなわち、銀行免許を取ってもらう)というものです。この場合、ステーブルコインの安定性は、銀行預金と同様に、自己資本比率規制や流動性比率規制などの銀行規制によって守られることになります。

 二つ目は「安全資産モデル」(HQLA Model)です。この場合、ステーブルコインは、裏付資産として国債や中央銀行預金などの安全資産を持つことで、その安定性を確保していくことになります。

 三つ目は「中央銀行債務モデル」(CBL Model)です。この場合、ステーブルコインは、その発行額に相当する額を中央銀行に預託することで、その安全性を確保することになります。

 四つ目は「預金モデル」(DB model)です。この場合、ステーブルコインは、その発行額に相当する額を民間銀行に預けることで、その安全性を確保することになります。

 私見を交えて申し上げれば、一つ目の「銀行モデル」や四つ目の「預金モデル」は、既存の銀行預金にブロックチェーンや分散型台帳などの技術を応用することに近くなります。二つ目のモデルは、かねてから経済学界で提案されていた「ナローバンク」と類似していますし、三つ目の「中央銀行債務モデル」は、経済実態としては、中央銀行デジタル通貨を間接的に発行することと近くなるでしょう。

 現在のところ英国当局は、ステーブルコインにどのような規制を課すか、また、中央銀行デジタル通貨を発行するかどうか決めていません。そのうえで、これらを判断する上での意見を、本年9月7日までの3か月間にわたり、広く募集すると宣言しています。

 デジタル通貨への対応を巡る議論は、今後ますます白熱していくでしょう。いずれにしても、伝統を誇る英ポンドも、新たなデジタル技術への対応を真摯に考えるようになっていることは、決済のデジタル化の流れを象徴しているように感じます。

◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。