長らく世界の金融の中心であった英国でも、決済のデジタル化が急速に進む中、デジタルマネーへの対応を真剣に検討するようになっている。元日銀局長の山岡浩巳氏が英国の動向を解説する。連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第41回。
世界の金融の中心といえば、長らく英国の「シティ」、すなわちロンドンでした。英ポンドは、第二次大戦後のブレトンウッズ体制によりドルが圧倒的な基軸通貨となるまで、世界の基軸通貨の座にありました。英国の経済的な地位はかつてに比べ低下しましたが、現在でも英ポンドが世界の主要通貨の一つであることに変わりはありません。例えば、英ポンドは、米ドル、ユーロ、円、人民元とともに、IMFの特別引出権(SDR)を構成しています。
伝統的な「リブラ」と新しい「リブラ」
ポンドの表記は“P”ではなく“£”と書かれます。これは、古代ローマの通貨単位「リブラ(Libra、天秤)」に由来しており、通貨としての歴史と伝統を感じさせる名称です(ちなみに、重量の意味の「ポンド」も表記は“Lb”ですが、由来は同じです)。
同じ古代ローマの由緒ある通貨単位を、新たなデジタル通貨の呼称に使おうとしたのが、フェイスブックの主導する「リブラ」でした。こちらのリブラは、各国の強い警戒を招き、名前も「ディエム」への変更を余儀なくされました。しかし、リブラの構想は、各国においてデジタル通貨の検討を加速させました。
デジタル通貨には、中央銀行が発行する「中央銀行デジタル通貨」と、民間が発行するものが考えられます。これまで、中央銀行デジタル通貨の検討は、主要通貨を持たない小国――例えばスウェーデン、バハマ、カンボジア、ウルグアイ――で進められきました。しかし、中国が「デジタル人民元」の実証実験に乗り出す中、この構図は変わりつつあります。