写真:ohayou/イメージマート

明らかに要員が不足している状態で強行し「戦力の分散投入、各個撃破」になっている

 多くの企業では、プロジェクト開始までの工程の後半である「④必要な、ヒト、モノ、カネを特定する」で、プロジェクトを成功させるために必要な要員リソースの特定を行っていない、あるいは「⑤予算を確保し、実際に要員を配置する」で、計画概要に書かれている要員が投入される保証もない状態でプロジェクト開始の判断がなされるケースが少なくない。

 その結果、プロジェクトを成功させるために必要な要員リソースの質・量ともに不足している状態で戦いに突入し、不完全な成果に終わるか、玉砕して何も成果を上げないまま時間と予算を使い切って解散することが多い。もし、①目的/目標を明確に定め、②的確な状況整理を行い、③成功の見込みが高い計画概要を作成したとしても、必要な戦力を投入しなければ成功はおぼつかない。当たり前のことであるが、それを確実に行っている企業は少ない。

 2019年11月の弊社調査によると、「プロジェクト開始前に必要な要員リソースの質、または、量のチェックを行っていない」という回答が74%を占めた。また、経営層とこうした状況について話をしてみると、稟議に上がってくるプロジェクトメンバーの名前は見ているが、「いつも同じ名前が挙がっている」「兼務での工数のやりくりができているか分からない」ということをよく耳にする。

 また、巨額のDX投資を行っている某巨大企業では、プロジェクトリーダー1人当たり3~5件のプロジェクトを担当している。もちろん既存ITシステムの改修のように、変動要素が少なく、自社やパートナー企業に十分な経験が蓄積されたプロジェクトであれば、実務はパートナー中心で自社社員は管理中心で進めることは無理な話ではない。しかし、新しいことにチャレンジするDXプロジェクトでは、自社もパートナー企業も手探りで進まざるを得ず、自社社員がイニシアチブをとって、指示を出したり、状況変化に対応するための意思決定を行ったりすることが必要となる。このようなプロジェクトを1人が5つもリーダーシップを発揮し、イニシアチブをとって推進していくことは現実的ではない。実際に多くのプロジェクトがベンダーに丸投げ状態になっており、満足のいく成果を上げられないことが多い。

 筆者はコンサルティングでプロジェクトリーダーとして、最大6つのプロジェクトを同時に進めたことがあったが、そのうち3つは能力の高いサブリーダーに任せていたので、3プロジェクトを自ら実施し、3プロジェクトをスーパーバイズしていた。その時は、週末もなく、毎日深夜まで働いてなんとかやり遂げたが、今思い出してもぞっとする経験だった。プロジェクトメンバーが必要数確保できていて、その状態だったので、前述の某巨大企業のようにプロジェクトリーダーのもとにメンバーがほとんどおらず、パートナー企業中心で進める体制では、DXで求められるクリエイティブな成果を出すことはどう考えても現実的ではない。

 また、別の企業のDX推進部門では、経営層や事業部から要求されるDX関連リサーチやPoC(Proof of Concept: 概念実証)、実装のプロジェクトが膨大な数に上るため、部門長や部長クラス自身がプロジェクト推進に忙殺されてしまっていた。プロジェクト横断的な進捗管理や品質管理、メンバーケアなどに時間を割く余裕もなく、DX推進部門の組織的なマネジメントができない状態が続いていた。

株式会社マネジメントソリューションズ MC事業部 エグゼクティブディレクター 和田智之氏