パウエル議長のメッセージ
5月20日、連邦準備制度理事会のパウエル議長は、デジタル通貨への取り組みについて、動画によるメッセージを公開しました。予め決まっている講演などの機会を使うのではなく、敢えて動画を作成してメッセージを伝えたことは、この問題について、米国当局が自らの意思を正確に伝えたいという意向を強く持っていることを示しています。
パウエル議長は、「ステーブルコイン」が新たな支払い決済手段として登場していると述べた上で、その利用が増えれば、適切な規制監督のあり方を考えざるを得ないと述べています。
また、中央銀行デジタル通貨については、これが、既に一定の安全性や効率性を確立している米国の支払決済システムをさらに向上させられるかどうかが重要な論点であると指摘しています。さらに、中央銀行デジタル通貨は、仮に発行される場合でも、民間によるドル建てのデジタル決済手段を置き換えるものではなく、あくまで補完するものだとも述べています。
その上で、連邦準備制度は今年(2021年)の夏に、デジタル決済や中央銀行デジタル通貨を巡る論点を検討したディスカッションペーパーを公表し、一般から広く意見を求めていくとしています。
このようなパウエル議長のメッセージは、これまでの米国当局の動きの延長線上にあるものと言えます。同時に、米国においても今夏以降、ステーブルコインや中央銀行デジタル通貨を巡る一般の関心が強まることが予想されます。
基軸通貨である米ドルのデジタル化が、当局が介入を強める形で進むのか、それとも、これまで同様、原則として民間に委ねられるのかは、中国のデジタル人民元の取り組みとの対比という意味でも、今後注目されていくでしょう。
◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。
◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。