「リブラ」とステーブルコインの影響

 しかし、最近では米国当局も、中央銀行デジタル通貨について、腰を上げて検討しなければならないというスタンスに変わりつつあります。

 その一つの契機となったのが、フェイスブックが主導する「リブラ」計画でした。「複数の通貨建ての資産を裏付けとする」というリブラの当初の計画に対し、米国議会は強い反発を示しました。この中で行われた2019年10月の公聴会で、フェイスブックのザッカーバーグCEOは、「米国がデジタル決済システムを主導しなければ、他国が主導権を握るだろう」(If America doesn’t lead on this, others will.)と警鐘を発しました。その後の中国におけるデジタル人民元(e-CNY)の実験拡大とあわせ、米国当局者に本腰を入れさせる上で重要なトリガーになりました。

 さらに、米ドルとリンクした「ステーブルコイン」(価格変動が小さくなるように設計された仮想通貨)の登場も、米国当局の腰を上げさせる、一つの動機になっています。

 上述のリブラも、今では「ディエム」と名称を変え、米ドル建て資産を100%裏付けとする、実質的には米ドル建てのデジタル通貨を指向しています。さらに、ディエムに先駆けて、既にUSD Coin(USDC)など米ドル建てのステーブルコインが登場しています。

 ステーブルコインは、その裏付け資産が確実に保有されていれば、ビットコインのような誰の債務でもない暗号資産よりも、むしろ、銀行預金やPayPalのような民間デジタル決済手段に近いものになります。すなわち、ドル建ての支払手段にブロックチェーンや分散型台帳技術を応用するものとも捉えることができます。そうなると、現金や中央銀行預金に、同様の技術を応用することを考えても良いのではないか、という話にもなるわけです。

中央銀行デジタル通貨の検討に取り組んでいる中央銀行の割合(注:国際決済銀行による。調査対象となった中央銀行は65行)