在タイ日系企業が抱える課題

 JMACタイでは在タイ日系企業の日本人幹部を対象に毎年、自由記述式の問題認識実態調査を行っている。

 そこでの問題認識は、拠点経営の戦略に関わる「売り上げの伸び悩み」「競合の台頭」「人件費の上昇」など、事業環境の変化に対して移り変わるが、内部マネジメントに関する問題認識も毎回、必ず挙がる。

「仕事の納期を守らない」「目標を達成できそうになくてもSOSを出さない、事後に未達成の報告が出されるのみ」「業務上の不具合があると、すぐに他部署やサプライヤーのせいにしてしまう」などの時間軸や責任感、コミュニケーションに対する違いに直面したもの。「支持を仰ぎに来る部下に意見を求めると「Up to you(あなた次第)」としか返ってこない」「とにかく受身で、自発スイッチがどこにあるか分からない」といった仕事に対する姿勢にまつわるもの。「やっと育ってきたと思っていたら辞めてしまう」という確立された転職市場・雇用環境への戸惑いなど、さまざまである。

 実はこれらの内部マネジメントに関する問題認識は、事業環境の変化がある中でも在タイ日系企業の課題としては20年間ほとんど変わらず、調査回答での出現率も80%超。マレーシア、ベトナム、フィリピンの調査でも同様の結果が続いている。

 ASEAN諸国の中でも日系企業の進出が1970年代からと比較的早く始まっていたタイ拠点に至っては、日本と同じく仏教徒が過半を占め、親日的なイメージがあること、バンコクやその近郊では日本の食材が豊富で和食店の数も多く、食には困らないことなどが相まって、特に製造業ではタイが駐在先人気ランキング上位の常連になっている。

 しかし、人気と実態はかけ離れているようで、「タイ赴任が決まったとき、周りから『タイでよかったじゃないか。事業は安定しているし、ゴルフ天国らしいし、日本人向けの飲み屋もあって楽しく過ごせるのでは』と言われた。でも来てみたら、現実は全く違った。現地化が進んでいない一方で、削りに削られ最少人数の日本人出向者で回しているのが実態。この実態を本社は本気で把握しようとせず、無理な目標設定を要求してくる。日頃のレポート1つとっても管理強化され、日本拠点並みの精緻なレポートを要求してくるが、タイ人スタッフに任せてそこまでのレポートはつくれない。結局、日本人が全てカバーしなくてはならない」

 このようにこぼす現地拠点の日本人幹部も少なくない。現在の在タイ日系企業の一面をとらえた象徴的なコメントである。