また、交通インフラが物理的な混雑のピークロードに対応するには、大きなエネルギーを消費します。この点、リモートワークの活用などにより混雑を緩和できれば、ここからも省エネ効果が期待できます。一方で、デジタル化がマニュアル事務の効率化に結び付かず、手続きがオンラインと対面の両方で行われれば、むしろ、全体としてのエネルギー消費も増えてしまうでしょう。

デジタル技術をトレーサビリティ向上に

 加えて、デジタル技術を積極的に地球温暖化防止のために使っていく視点も有益です。

 地球温暖化防止や温室効果ガス削減の取り組みには、「エネルギーやモノの流れをトレースする」「これまで区別されていなかったものを区別する」といった、レベルの上がった「トレーサビリティ」が求められます。例えば、電力については、再生可能エネルギーから作られる「グリーン電力」と「そうでない電力」という区分が登場します。さらに、水素についても、「グリーン水素」(製造段階からCO2を出さない)、「グレー水素」(製造段階ではCO2を排出する)、「ブルー水素」(産出するCO2を回収しながら作る)といった区分が行われます(第26回参照)。このようなトレーサビリティの向上に、ブロックチェーンや分散型台帳などの技術が貢献することが期待されています。

 例えば、地球温暖化を防止する投資のための資金調達にブロックチェーン技術を応用し、資金の使途を限定するなどの取り組みが始められています。また、余剰電力を融通し合う電力取引や排出権取引にブロックチェーンなどの分散型技術を活用し、取引を効率化することも検討されています。排出権取引を行うためにエネルギーを大量に使うのでは意味がないからです。さらに、食品のトレーサビリティ確保にデジタル技術を活用し、フードロスを減らす取り組みなども、地球環境の維持に貢献を果たし得ると考えられます。

出所:環境省

 このように、ITやデジタル化が地球温暖化防止と整合的かどうかは、結局、ITやデジタル技術の使い方次第と言えます。重要なのは、既存の紙ベースの事務などをきちんとスクラップしながら進めるとともに、デジタル技術そのものを地球温暖化対応に役立てていくことでしょう。

◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。