今年、テスラ社のCEOであるイーロン・マスク氏が、テスラの支払いにビットコインを受け入れると表明し、ビットコイン高騰のきっかけとなりました。一方で、テスラ社本体にとっては市場での評価には必ずしもつながらず、テスラ社の株価は下落しました。
現金とデジタル決済を比べれば、デジタル決済の方が環境にはフレンドリーに見えますが、実際のところどうなのでしょうか。現金は電気がなくても使えますが、物理的な輸送やATMの稼動などには相当なエネルギーを使います(もちろん、だからといって現金を無くそうというのは乱暴な議論であり、停電の時でも使える現金は、重要なライフラインとしての役割を果たす面があります)。
一方、ビットコインは、「マイニング」と呼ばれる、巨大な計算を通じた取引の認証行為そのものにかなりの電力を使います。しかも、取引の認証が常に10分程度で行われるよう、計算機の性能向上に伴って、どんどんマイニングの計算を難しくする調整が行われます。したがって、そのために要する電力消費量も増えやすくなります。現在、ビットコインのマイニングのために、フィリピンの電力消費量に相当する電力が使われており、そのための二酸化炭素排出量はロンドンに匹敵するとの試算もあります。中央銀行の集まりである国際決済銀行(BIS)のカーステンス総支配人も2018年、暗号資産は環境問題(environmental disaster)に結び付き得ると指摘しています。
テスラによるビットコインの受け入れ表明が市場に好感されなかったのも、このことが主因と考えられます。もともとリバータリアン的な指向の強いテスラ社CEOには、「どの国家にも依存しない」というビットコインは魅力的に映るでしょうし、「再生可能エネルギーを開発し、マイニングの電力に充てれば良い」との発想もあるかもしれません。しかし、国に信頼を頼らない分、大量の電力を使って信頼を作らなければいけないビットコインと、環境フレンドリーを訴えるテスラの企業イメージとのギャップが、市場には強く意識されたわけです。