2020年9月、欧州委員会は、「暗号資産市場」(MiCA、Markets in Crypto-Assets)に関する新たな規制案を示しています。この案では、「暗号資産(Crypto Assets)」「電子マネートークン(e-money Token)」および「資産参照型トークン(Asset Referenced Token)」「ユーティリティトークン(Utility Token)」というカテゴリーが新たに設けられています。

 この中で、NFTの少なくとも一部は「代替不可能な暗号資産(Crypto-Assets which are unique and not fungible)」に分類され、その対価となるデジタル通貨は「電子マネートークン」ないし「資産参照型トークン」に分類されることで、NFT取引全体が「暗号資産市場」として網羅される展望が出てきます。欧州のトークンなどに関する規制の整備が今度どのように進むか、注目したいと思います。

デジタル技術を「経済活動の民主化」のために

 NFTは、デジタル技術革新の下でのクラウドファンディングやESG・SDGs投資などと共通する面を持っています。すなわち、投資や寄付などの形で、お金を「自分が出したいところ」に出すことが、技術的に可能になっています。例えば、好きなクリエイターのアニメにお金を出したければ、アニメ制作のためのクラウドファンディングに応じることもできますし、アニメのコンテンツのNFTを購入することもできるわけです。かつての金融の仕組みでは、銀行に預金してもそのお金がクリエイターに貸し出されるかどうかはわかりませんし、クリエイターが自ら債券を発行することも難しかったでしょう。

 一方で、デジタル技術が規制逃れに使われる事例も各国で散見されています。これは、「寄付」や「物々交換」のようにもともと規制の範囲外だったものがデジタル技術により「市場化」されてきたという事情があります。また最近では、「グリーンウオッシュ」(「地球に優しい」といった言葉で環境フレンドリーに見せかけ、投資を煽る行為)がますます問題になっています。デジタル用語が同様に、投機を煽る材料に使われてしまうと、市場の持続的発展を損なうことになりかねません。

 クラウドファンディングやESG・SDGs投資同様、必要なことは、経済活動に人々の意思をより良く反映させる「民主化」の手段として、デジタル技術を使っていくことであろうと思います。

◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。