確かにそう書かれていますが、これはあくまで平均値を参考として取り上げた一例です。公的年金の不安はずっと以前から、数字をもとに論理的に指摘されており、個人投資家のあいだでも「より充実した老後をより安心に暮らすためには公的年金だけでは難しい。だから個人での資産づくりが必要」という認識が広がっていました。

提言の本質的な内容はごく一般的

 報告書をまとめたワーキング・グループの有識者とは、各省庁の担当者や運用会社を含む金融機関、学者やFP(ファイナンシャル・プランナー)など。個人を相手にしたFPが含まれているのがポイントで、彼ら・彼女らが示したのは「公的年金だけに頼った老後生活は難しいので、退職金を含めた長期の資産形成による備えが必要だ」ということです。

 今回の件は、国の諮問機関が公的年金の現状を数字を例に明言したことで不安が顕在化し、メディアの取り上げ方によって火に油を注いだ格好です。年金政策への強い不信感が根底にあるのも事実でしょう。しかしながら、提言の内容は資産運用の世界ではごく一般的な内容といえます。

 ただ、今やろうとしていた仕事を上司から「あれ早くやって」と催促されるような、癪な気分になるのは確か。公表後の対応も悪手の連続で腹が立ちます。ここはぜひとも冷静になって、今やるべきことに集中しましょう。5点を以下にまとめました。

(1)自分で、本報告書をオリジナルで読む

 まずは、本報告書(金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」令和元年6月3日)を自分で読むことをお勧めします。しかも抜粋ではなくオリジナルで。A4判で51ページになりますが、たいした量ではありません。表やグラフなどもあり、会社などでよく目にするビジネスレポート程度です。

 話題になっている「老後2000万円」については、16ページと21ページあたりに言及されています。その前後をしっかり読みましょう。特に21ページには以下のような記載があります。

「この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。(中略)重要なことは、長寿化の進展も踏まえて、年齢別、男女別の平均余命などを参考にしたうえで、老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、考えてみることである。」