長い時間をかけて老後資金の準備を考えた場合、投資の中心になるのは株式や債券、不動産あたりでしょう。投資信託(投信)やETF(上場投資信託)を通じてこれらに分散投資することで、リスクを抑えながら将来の収益を期待して待ちます。

 しかし、内外の株式市場や景気動向に不透明感が増していくと、より安全な投資対象を探したくなるものです。少しリスクを取りつつも分散効果が期待できる資産としてクローズアップされるのが金(ゴールド)です。

金の価値の一つは「無国籍通貨」

 人類が初めて金を手にしたのは約6000年前といわれています。以来、金は“普遍の価値をもつ人類の資産”という役割を担ってきました。その希少性と万国共通の価値から、各国通貨の価値を裏づける「金本位制」を世界中で採用していた時期もありました。

 世界で初めて英国で金本位制が採用された1816年当時、世界中にある金は約5000トンしかありませんでした。その後採掘が進んで、現在の採掘総量は約15万5000トン。30倍以上になりましたが、これでも、25メートル×50メートルのオリンピック公式プール3杯分程度です。地球にまだ埋蔵されている金は約5万4000トン程度といわれており、金の希少性は今後も魅力のひとつとなり続けるでしょう。

 金本位制から管理通貨制へ移行した現在でも、金は「無国籍通貨」としての側面をもっており、基軸通貨である米ドルの代替として投資される傾向があります。

各国中央銀行が保有量を拡大中

 金が通貨としての側面をもっていることから、各国の中央銀行は莫大な量の金を保有しています。自国通貨だけでなく基軸通貨米ドルに万が一のことが生じた場合の外貨準備、つまり資産価値の保全のためです。

 2018年は各国中央銀行が金保有量を大きく増やした年でした。金の国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、2018年の中央銀行による金の購入量は651.5トン。前年から74%増加しており、米国が金本位制離脱を決めた1971年以降で最大となっています。

2018年末現在の各国中央銀行・公的機関の金保有量(単位:トン)と外貨準備に占める金の割合(出典:IMFへの報告からWGCまとめ)

 この傾向は2019年に入ってからも続いており、2019年1~3月期も前年同期比68%増の145.5トンを購入しています。WGCでは各国中央銀行が金購入を進めている理由について、「不安定な世界経済や地政学リスクが背景にある」と分析しています。

 地政学リスクとは、ある特定の地域が抱える政治的・軍事的な緊張の高まりが、その地域もしくは世界全体の経済を先行き不透明にするリスクのこと。テロや戦争、国・地域の財政破綻などが典型的ですが、今回は米国と中国の貿易戦争や、英国の欧州連合(EU)離脱などが背景に挙げられています。

金を投資対象にした投信やETFで

 個人においても、戦乱の歴史が長い旧東欧諸国やアジア・アフリカの新興国など、自国通貨の信用がそれほど高くない国々では、金による資産保有が珍しくありません。日本の個人が資産運用で活用するためには、(1)金価格に連動するように設計された投信やETFを買う、(2)ドルコスト平均法で金を買い付ける「純金積立」を利用する、(3)金鉱株などの金関連銘柄で構成された投信を買う――の3つが一般的。最も手軽でわかりやすいのは(1)だと思います。

 投資対象としての金の特徴は以下の3つにまとめることができます。

(1)金利がつかない
金そのものに金利や利息が生じることはありません。
(2)信用リスクがない
金には株式や債券のように発行体が存在しないので信用リスクはありません。
(3)為替動向の影響を受ける
金は米ドル建てで取引される国際金融商品です。前述のように米ドルの代替ニーズがあるので為替動向、とくに米ドルの影響を受けます。国際金価格はこれまで、米ドルと逆に動くのが一般的でしたが、最近はそうとは限らなくなっています。

 金は米ドルの代替資産として投資されることが多いので、価格動向は米国の金融政策に大きく左右されます。利上げ政策が進む場合は、債券や預金などの魅力が高まる半面、金の投資妙味は落ちることになります。利下げ局面ではこの逆の傾向になります。

上値と下値のメドがわかれば難しくない

 金価格は需給や地政学リスクなどの影響を受けることから、値動きの仕組みが難しいと思われがちです。一方で、リスク要因が限定されるので株式よりシンプルだという見方もあります。元WGC日韓地域代表でマーケットアナリストの豊島逸夫氏は「金価格には底値と上値のメドがある」といいます。

 豊島氏によると、下値メドは1200ドル。この価格は高コスト体質の金鉱山会社の生産コスト並みとされており、1200ドルを割ると世界の金鉱山の2割が閉山するという調査結果も。また、この価格あたりになると金の2大需要国である中国とインドが購入に動く傾向があり、これ以上は価格が下がりにくくなります。

 上値メドは1500ドルです。この価格を超えると、リサイクルの金の供給が増え始めます。リサイクルの金とは、パソコン、携帯電話、デジカメ、ゲーム機などの精密工業製品で使われている金のことで“都市鉱山”と呼ばれるもの。価格が上がると金の回収量が増え、1500ドルを境に価格が頭打ちになる傾向があります。

 もちろん、この動きと価格感はこれまでの傾向であって、今後もずっと続くという保証はありません。しかし、この傾向を覚えておくだけでも「金投資は難しい」というイメージを払拭できるのではないでしょうか。

「有事の金」から「平時の金」へ

「有事の金」という言葉をご存知でしょうか。地政学リスクの緊張が高まると、“万が一”が起きた場合の“最後の拠り所”として金に資金が集まり、価格が上昇する現象を表しています。

 最近では、この言葉通りに価格が動かない例が出てきています。グローバルな情報が瞬時に行き渡る現在では、投資のプロは緊張が高まる前に金保有を増やし、有事発生時にはすでに売却しているからです。個人の投資行動はどうしてもプロから遅れがちで、そのために収益機会を逸することがよくあります。

 前述の豊島氏は「金はバイ&フォーゲット(買って忘れること)。有事ではなく、平時に買うものなのです」と述べています。

 長期投資の中心はあくまで投信による株式投資です。ただ、分散投資の一環として、金には資産を守る役割を担わせましょう。経済環境や金融市場の見通しがよくわからないと感じている方は、金を投資対象にした投信やETFで資産を守ることを考えてもよいでしょう。金の専門家やFPなどは、金への投資金額は資産全体の10%が目安と説明しています。