投資する金融商品選びにあたって最も重視したいのは、当然のことながら長期にわたる収益性です。それを実現するための要素として投資対象(市場)やコスト、運用手法などがありますが、収益性はともかく長期間という条件を満たす要素は少ないようです。

 その長期にわたる収益性を考える尺度として最近、注目を集めているのが「ESG投資」です。ESGはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の頭文字で、企業の持続可能な成長のために、これらの観点が必要だという考え方。逆に言うと、ESGの観点が希薄な企業はリスクを抱えていると判断され、長期的な成長が期待できないことを意味します。

ESGは市場からきちんと評価されているのか

 この考え方は欧米の機関投資家から世界中に広がっており、最近では日本の個人投資家の間にも浸透しつつあります。企業経営の基本的な考え方としても広がっているので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。ESGの観点から言えば、環境や社会的意義、企業統治などにも十分に留意しながら収益拡大をめざすのが現在の企業経営というわけです。

 一方、資産形成を目的とする個人投資家にとって大事なことは、ESGを重視した企業が市場からきちんと評価され、株価に反映されることでしょう。ESGは立派だけども収益は伸びず、株価も冴えない――という企業では投資対象になり得ません。

 そこで、ESG投資を個人の資産形成に活用するためのヒントを考えてみます。

投信が増加する段階に移行しつつある

 世界的に見れば、ESG投資は確かに広がっています。持続可能な投資(サスティナブル投資)を普及するための国際機関であるGSIAの報告によると、2016年末現在の世界のESG関連投資残高は22兆8900億ドル(約2541兆円)で、2014年からの2年間で25.2%増加したといいます。

 そのうち、日本は約4740億ドルと全体の2%を占める程度でした。しかし、2017年に世界最大級の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資を具体的にスタート。同法人が2018年8月に刊行した「平成29年度 ESG活動報告」によると、2018年3月末現在で156兆円の全運用資産のうち1.5兆円をESG関連投資で運用しています。

 一方、ESG投信はどうでしょうか。投信評価のモーニングスターが「ESG focus」として分類する投信は2018年10月末現在43本で、合計の純資産残高は2870億円。同社では「ESG投資は、これまでの関心が高まっていた段階から具体的に投信が増加する段階に移行しつつあり、今後も新規設定が増えると予想される」と分析しています。

日本におけるESG投信の純資産残高と銘柄数の推移(2013年10月~2018年10月) (モーニングスターが「ESG Focus」として分類する国内投信(ETF除く)が対象。出所:モーニングスター作成)

この1年間のパフォーマンスは伸び悩み

 では、その運用実績(パフォーマンス)はどうなのでしょうか。結論から言えば、足元では伸び悩んでいるのが現実のようです。

 前述のGPIFは、ESG投資にあたって3つの指数をベンチマークとしたインデックス運用をおこなっています。その指数とは「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」「FTSE Blossom Japan Index」「MSCI日本株女性活躍指数(WIN)」の3つ。2017年4月から2018年3月までのそれぞれの収益率は13.74%、14.83%、15.29%となっており、いずれもTOPIXの収益率を1~2%ほど下回っています(GPIF調べ)。

 こと収益性を重視するなら、素直にTOPIXを連動対象とするインデックス投信に投資した方が効果的と言える結果となっています。

投資商品としての評価はまだまだこれから

 どうしてこのような結果になってしまったのでしょうか。理由は大きく2つあると思われます。ひとつは、ESG投信そのものの市場規模がまだ小さく、ある一部の特徴ある投信によってパフォーマンスや純資産残高が左右されること。もうひとつは、ESGが盛んな企業はいわゆる大企業が多く、本業に関係なくPRやディスクロージャーに注力した結果、ESGで高い評価を受けてしまったこと――などが考えられます。

 投信評価の三菱アセット・ブレインズは「投資する個人から見て、ESGの重要性や投資を通じた関わり合いの意味するところが十分に理解されていない可能性がある。リターンに結びつく結果を見てはじめて興味や注目が湧くのかもしれない」とレポートしています。

 ESGは経営哲学としては浸透してきましたが、実際の投資商品や市場としては歴史が浅く、その評価についてはまだまだこれから、と言えそうです。

合理性を追求するか、投資を楽しむか

 人生100年を前提に長期の資産形成を考えると、いまESG投資をどうとらえればよいのか、わかりづらいかもしれません。

 たとえば、パフォーマンス第一主義という方はいると思います。運用コスト低減を徹底して効率的な分散を図り、長期での複利効果を積み重ねていく。投資に楽しみはいらない、投資で得たお金で自分と家族が人生を楽しむのだ――という人。そのような投資家はESGはさておき、定期的にリバランス(資産配分の見直し)をしながらインデックス投資を追求していくべきでしょう。それは合理的かつ現状ではベターな選択だと思います。

 一方で、投資も人生だから楽しみながら取り組みたい、という人がいてもいいわけです。資産運用は長期保有が大前提。自分が好きな株式・投信だからこそ、パフォーマンスにブレが出ても長く保有できると考えることができます。とくに個別株式の世界では、その企業の商品・サービスのファンだから株式を保有するという考え方が昔からあります。

 ESGの観点でその企業のファンになったり、その投信の投資哲学を気に入ったりすることもあるでしょう。投資としてはそれも正しいスタンスです。

5年後10年後に期待して少額から先行投資も

 ESG投資の歴史が日本より長い欧州では、ESG評価が高い企業の株価は相対的に上がりやすいという傾向がはっきりしています。ただ歴史が浅い日本では、まだその傾向は見られないようです。株式市場の世界では「あのとき投資しておけば・・・」という話は枚挙に暇がありません。いまのうちからESGに先行投資して未来に期待するのは、ある意味で合理的ということもできます。

 ESG投資の評価や手法が見えてくるのは少なくとも数年後だと思われます。もし先行投資するなら、あくまで“おまけ”のつもりで少額を分散させることが大事です。たとえば、運用の中心は内外の株式に投資するインデックス投信で、ESG投信は全体の10%以下にしておくなど。あくまで、長期間のなかで様子を見ながら投資していくスタンスです。

 あるファンドマネージャーは、株式市場は短期的にはアンフェアであっても、長期的にはすさまじくフェアだと言っています。ESGが企業社会や株式市場に本質的に受け入れられる考え方だとしたら、その評価は5年後10年後に大きく花開くはず。それを待ちながら投資していくのも、合理的かつ楽しい資産形成になるのではないでしょうか。