「ロボアド」(ロボットアドバイザー)という言葉を聞いたことがあるかもしれません。利用者(個人投資家)がインターネットやスマートフォン(スマホ)のアプリを通じて投資に関するいくつかの簡単な質問に答えると、コンピュータ(アルゴリズム)が自動的に最適な資産配分や投資対象を提案してくれるサービスのことです。

 ロボアドは利用者の年齢や年収、投資経験、運用期間、目標リターン、リスク許容度などを考慮しながら、国内外のどのような金融資産にどの程度の比率で投資すれば、より少ないリスクで収益性が高められるかを確率統計学的な計算手法によって割り出します。フィンテック産業の代表格として話題にのぼっていますが、今回はその有効性について考えてみましょう。

「投資一任型」と「アドバイス型」の2種類

 ロボアドが提供する投資アドバイスの基本原理は、1950年代に登場した現代ポートフォリオ理論です。それから半世紀以上が経ち、理論の改良、ITの進歩、スマホの普及などで、世界中の金融市場へ手軽にアクセスできるようになったことで、日本ではロボアドの実用化がここ数年で一気に進みました。現在では30社程度が、主に金融機関のサービスとしてロボアドを提供しています。

 利用者へのサービスとしては、「投資一任型」と「アドバイス型」の2種類があります。

「投資一任型」は、提案されたポートフォリオに合わせて主にETF(上場投資信託)と投信で実際の運用を行います。売買はもちろん、資産配分を調整するリバランスも自動的に行ってくれます。

 一方の「アドバイス型」はポートフォリオの提案のみを行うタイプ。実際の売買やリバランスは利用者自身で行うことになります。いずれも、ポートフォリオ診断だけなら無料のロボアドがほとんどなので、投資の勉強や自分の投資資産をチェックするために活用してみるのもいいでしょう。

運用能力は未知数

 ここまで読んで「聞いたことがある提案内容だな」と感じた方は多いと思います。確かに従来からある「ラップ口座」と似ています。実のところ、現状のロボアドが提案する内容(計算結果)そのものは別段、目新しいものではありません。

 これまで過去の実績データと人間の経験に基づいて算出されていたポートフォリオが、コンピュータのアルゴリズムで簡単に提供できるようになったことで、ロボアドは低コストでのサービスが可能になっています。ラップ口座(ファンドラップを含む)では、年間預かり資産のおおよそ3%程度かかるといわれる管理コストが、ロボアドなら同1%以下に抑えることが可能。極論ですが、ロボアドは低コストのラップ口座と理解することもできます。

 そこで、ちょっとした皮肉を込めてロボアドを“機械ラップ”、ラップ口座を“人間ラップ”などと呼ぶ人もいます。

 ロボアドの運用能力については、サービス開始からの期間がまだ短いこともあり、いま巧拙を言及するのは難しそうです。一部には、投資対象を国内・先進国・新興国の株式と債券、国内・先進国のリート(不動産投資信託)の8つに均等投資する、より低コストのインデックス投信と運用実績がそう変わらないという指摘もあります。まだまだ未知数ということになるでしょう。

AIはこの先50年、人間に勝てない?

 AI(人工知能)と合わせて語られることが多いロボアドですが、実のところ「本格的にAIを活用した個人向け投資アドバイスサービス」はほとんどありません。

 AIの定義はさまざまですが、「大量の知識データに対して、高度な推論を的確に行うことを目指したもの」と捉えることができます。現在では、機械学習のひとつであるディープラーニング(深層学習)がブレイクスルーとなってAIに注目が集まっています。機械学習によってビッグデータを解析し、予測することが現状の“AI”の条件のひとつといえるでしょう。

 機械学習とは、大量のデータを読み込ませて見つけ出した分類・パターンによって、コンピュータが自律的に推論できるようにする技術のこと。ロボアドでは、運用モデルの一部や株価下落要素がある出来事の予測などで機械学習を用いたりしていますが、現在のAI技術の中核であるディープラーニングはほとんど使われていません。

 また、とくに機械学習のプロセスがブラックボックス化しやすい、相場の転換点などの突然の市場変化に弱いなどの弱点が指摘されています。「突然の変化で頼りになるのは人間が得意とする“一般常識”。これを持たないAIは、この先50年は人間に勝てない」と指摘する専門家もいるほどです。

本格的な“AI投資時代”へ

 AIはこの先50年、人間に勝てない――。そういわれながらもあっという間に人間に勝ったAI分野があります。将棋プログラムへの応用です。

 AI将棋プログラム「Ponanza」(ポナンザ)は2017年5月、プロ棋界最高位のひとつである名人に勝ちました。ポナンザの開発当初だった約10年前、プロ棋士たちの評価は「ようやくここまできたとはいえ、トッププロのレベルまで50年はかかるだろう」というものでした。それを10年で実現してしまったのです。プロ棋士の間では現在、AI将棋プログラムが人間より強いことは当然のこととして理解されるまでに進化しています。

 将棋というゲームと投資を同じに語ることはできません。しかし、AI技術の進化スピードがわたしたちの想像を遥かに超えたものであることは間違いなさそうです。

 実際に、本格的なAIと組み合わせた個人向け投資サービスが動き出しました。SMBC日興証券が2019年3月にスタートさせた「AI株式ポートフォリオ診断」がそれです。大きな特徴は2つあります。

 ひとつは投資家の資金や保有株式、リスク許容度に合わせて、より効率的な株式ポートフォリオを提案すること。もうひとつが、ディープラーニング手法を用いて学習させた株価予測AIによる期待収益性のスコア化です。

 SMBC日興証券と一緒にこのプログラムを開発したのがHEROZというAIベンチャー。前述の「ポナンザ」開発者が所属しているなど、AI将棋プログラムではトップクラスの会社です。ここにきてようやく、“AI投資時代”が本格的にスタートした感じがします。

ロボアドにつきあうための注意点

 今後の資産運用を考えるにあたって、ロボアドとはどのように付き合っていけばいいでしょうか。

 AI技術が猛烈なスピードで進化することを前提にすると、いまはまだ“機械ラップ”のようなサービスでも、今後の成長には大いに期待がもてるところです。まずは低コストのラップサービスとして活用しながら、AIの使い方やノウハウを少しずつ蓄積していくのは賢い考えだと思います。

 付き合い方には2つの注意点があります。ひとつは、ロボアドに人間の手や頭が付加されるかどうか。実際に海外のロボアドでは、アルゴリズムで算出された結果に人間の経験やアドバイスを加えて提案する「ハイブリッド型」が登場しています。現実的なアプローチではありますが、ロボアドそのものの進化としては亜流ですし、コストアップの要因にもなります。人間が介在するロボアドかどうかの注意が必要です。

 2つめは、1つめと関連しますが利用コストの点。ロボアドが進化して運用実績がより向上するようになると、投資家が負担するコストが増える可能性があります。ロボアドが金融機関の付加価値になり、収益源として期待されてしまうからです。また、個人向けには機能を限定して、より大きな収益が期待できる金融機関向けにサービスをシフトしていく可能性もあります。そのような兆候が見えた場合は、資産運用の目標(期間や金額)を確認したうえで、ロボアドを利用する価値を改めて問い直してみたいところです。