量子ビジネスにおいて日本は勝てるのか?

 このように、欧米や中国は、日本とは桁違いの予算と人的資源で量子コンピュータの実用化開発に取り組んでいる。日本は、同じ土俵で真っ向勝負しても勝ち目はないと思われる。それでは、どこに日本のビジネスとしての勝ち筋があるだろうか?

 先に述べた技術課題を踏まえると、日本のお家芸である半導体集積化技術や周辺技術(エレクトロニクス、冷凍工学、マイクロ波工学)を駆使した量子コンピュータ用冷凍機、低温エレクトロニクス、三次元実装技術の確立と知財確保で活路を見いだせるかもしれない。そこで開発した製造技術やコンポーネントは、将来的に世界中の量子コンピュータ開発企業で利用される可能性がある。

 量子プログラマーの育成、という可能性もある。現在、量子コンピュータ向けプログラミング言語やSDK(ソフトウェア開発キット)が多くの企業から無償で提供されており、世界中の研究者やプログラム開発者が量子コンピュータ向けアプリ探索をしている状況だ。日本においては、若い有能な量子コンピュータプログラマーを育成するための取り組みが情報処理推進機構 未踏ターゲット事業(量子コンピュータ部門)でスタートした。

 さらに、産学連携で量子コンピュータアプリを開発するための取り組みが、慶應義塾大学とIBMが開設した「IBM Q ネットワークハブ」で進められている。今後日本において、多くの若手と企業のさらなる参入によって、量子ソフト開発者の裾野が広がり、世界標準となるキラー量子アプリが日本から生まれることを期待している。

 最後に、読者、特に経営層のみなさんにぜひ認識していただきたいことがある。現在大ブームとなっている量子コンピュータであるが、その商用化に向けた研究開発競争はまだスタート地点にたったばかりである。商用化のためには、多くの技術課題を一つひとつ地道に解決しなければならない。そのため、量子コンピュータがビジネスで本格活用されるのは2035年よりも大幅にあとになる可能性が極めて高い*2。つまり長期戦の覚悟が必要となる。

*2 NISQを利用した量子化学計算や機械学習などのアプリケーション探索は現在盛んに行われている。NISQアプリの量子加速は現段階で不明であるが、もしかしたら近い将来にNISQがビジネスに使われる可能性もある。

 しかし世界を見渡すと、多くの国際的大企業が量子コンピュータ分野に参入し、欧米を中心に量子ベンチャー企業が続々と生まれている。なぜならば、商用化した場合のビジネスインパクトが破壊的だからである。この動きに乗り遅れないよう、今の段階から、多くの国内企業からの積極果敢な参入や長期的投資を期待したい。