もし、1億量子ビットの量子コンピュータを作るとなると、同じような数の配線が必要になる。しかも、膨大な数の配線を介して想像を絶する大量の熱が冷凍機の中に流入し、冷凍機の温度が著しく上昇してしまう。それを回避するための技術として、外部にある大量のエレクトロニクス装置群を冷凍機中にオンチップ化するための低温エレクトロニクス技術に最近大きな注目が集まっている。

 それ以外にも、大規模化した際の高精度マイクロ波信号伝送技術の確立、複雑回路構造による発熱やクロストークの抑制、量子ビット特性のばらつき改善、膨大な消費電力の大幅低減、量子コンピュータチップの自動不良検出法の開発など、想像を絶するような数多くの技術課題が残されている。また、大規模化した際に、量子ビットのコヒーレンス時間(重ね合わせ状態を維持する時間)を減少させないための技術開発も必須となる。

欧米・中国で大型国家プロジェクトが次々に始動

 ところが現状に目を向けると、このようにたくさんの技術的難題があるにもかかわらず、世界中の国々が国家プロジェクトとして巨額な予算を量子コンピュータに投じている。

 2018年10月には、EUの大型量子プロジェクト「EU Quantum Flagship」が始動した。これは10年間で1300億円(10億ユーロ)の超大型プロジェクトである。またイギリスでは、量子テクノロジープロジェクト「UK National Quantum Technology Program」が2014年より進行中で、その総予算は5年間で460億円(2.7億ポンド)である。

 中国においては、国家重点研究分野として量子通信と量子コンピュータが位置づけられており、その予算規模は1兆円に近いといわれている。実際、中国は2020年に量子研究センターを1200億円(70億元)で立ち上げる予定である。

 米国政府は、中国の動きに大きな危機感を抱いており、量子コンピュータ研究開発を強化する法案「National Quantum Initiative」を2018年12月に成立させる見込みである。米国においては、5年間で1400億円(12億ドル)の大型プロジェクトが今後始動する可能性がある。

 日本においても2018年から大型量子国家プロジェクト「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」が始動する。このプロジェクトの総予算は10年間で220億円であるが、そのうちの1/3が量子コンピュータ分野の予算である。Q-LEAPにおいては、超伝導量子コンピュータの研究開発(代表 理研 中村泰信チームリーダー)がフラッグシップ課題として採択された。日本においては今後10年間、超伝導量子コンピュータを中心テーマとして実用化に向けた研究開発が産学官連携にもとに進められる。この課題には、理研、東大、産総研に加えて、多くの企業(MDR、東芝、NTT、NEC、Qunasys)が参画する。