これは多くの組織とのコラボレーションが可能になるという大きなメリットがある一方で、いくつか留意しなければならない点もある。第1に、どのような知識がどのような形でコーディングされ、やりとりされるのかということを事前に決定するため、知識のすり合わせによって双方にとって全く新しい知識が生み出されるということはない。例えば、アプリケーションの開発者が新規性の高いアプリケーションのアイデアを持っていたとしても、アップルがそれにあわせてiPhoneやiPadの設計をいちいちすり合わせることはない。事前に設計された知識のインターフェイスの範囲の中での知識や技術はやりとりされるため、事前に想定した範囲を超える創発性は期待できない。創発性は最も少ない知識のマネジメントになる。
第2に、企業はコラボレーションが起こる前に知識のインターフェイスを構築する必要がある。もちろん、知識のインターフェイスを改良していくことはできるが、それは自らで設計しなければならず、変更にはコストがかかる。
第3に、プラットフォームの開発はサンクコストになるため、投資された費用を回収するためにも、多くの企業をひきつける必要がある。また、多くのパートナーを惹きつけるためには、プラットフォームを提供する企業の製品やサービスが大きく市場で受け入れられるという期待を大きく保つ必要がある。つまり、その製品やサービスに大きな期待を抱かせるようなことができない企業がこのような知識のマネジメントを始めたとしても、多くのパートナーに参加してもらうのは難しい。
コラボレーションを上手く機能させるために必要なこと
ここで見てきたように、3つのすり合わせの仕方は、創発性とコラボレーションのパートナーの数にトレードオフがある。創発性を高めようとすれば、どうしてもパートナーの数を多くすることには限界がある。すり合わせをする知識のインターフェイスを確立してしまえば、無数のパートナーとやりとりすることはできるが、創発性はある程度犠牲にせざるを得ない。
最後に、3つの知識のインターフェイスのマネジメントでも指摘してきたように、コラボレーションを上手く機能させるためには、(1)コラボレーションを行う組織に「期待」が醸成されていることと、(2)最終的な意思決定を行う主体の存在の2点が欠かせない。
オープンイノベーションの場合には、アウトソーシングとは異なり、事前にどのような「新しさ」が生み出されるかを予見できないことが多い。そのために、「期待」の醸成がコラボレーションへの高いコミットメントを引き出すためには重要になる。その「期待」の源泉となるのが、パートナーの高い技術力やセリングパワーである。これらが欠けていると、知識のインターフェイスをどのように構築しようとも大きな成果は期待できない。
コラボレーションにおいて最終的な意思決定を行う主体が明確になっているかどうかも重要である。コラボレーションの結果に対して責任を負う組織が、目標の設定、そこへたどり着くための戦略の策定と実行、そして戦術的な細かなストップ・アンド・ゴーを判断する必要がある。共同経営的なコラボレーションでは結局何も決められず、事業化のためのコラボレーションにおいては上手く機能しない。
(*)オープンイノベーションの知識マネジメントについて詳しくは『オープンイノベーションのマネジメント』(米倉誠一郎・清水洋著、有斐閣、2015年)を参照いただきたい。