この專門組織を介した集約的な知識のやりとりは、プロジェクトの新規性が高く、技術的な課題やニーズが構造化されていない場合に大きな役割を果たす。また、コラボレーションを行うそれぞれの組織が持つ知識の体系が異なるほど、知識をやりとりするための共通の言語を構築する必要がある。この点において、組織間で知識のやりとりを専門に行う部署の組織化の合理性は高い。この知識のマネジメントは、3つのインターフェイスのマネジメントの中でも、最も大きな創発性が期待できるものである。
ただ、注意をしなければいけないのは、創発性が高いからといって、專門組織を創り、自由にやらせれば価値の高いものができるというわけでは決してない。最終決定権の存在は重要である。共同経営的なやり方ではモノゴトをはっきりと決めることが難しい。
この専門部署を介した集権的な知識のやりとりには、デメリットもある。このマネジメントのパターンは、コラボレーションのパートナーの組織の数が限られる。パートナーの組織が1つや2つの場合には、專門部署を組織化して、そこで濃密な知識のすり合わせをすることはできる。しかし、コラボレーションのパートナーの数が10や50、あるいは100を超えると、それぞれの組織との間で専門部署を組織化することはコストがかかり、現実的ではない。それに、そもそもある特定の組織とのやりとりであれば、それは戦略的提携であって、オープンイノベーションの良さのオープンさ(排他性のなさ)がなくなってしまう。
(2) コミュニティを介した知識のやりとり
第2の知識のすり合わせのあり方は、組織間のコミュニティを構築することで、密接な知識のやりとりを多くの組織と行うものである。このマネジメントのパターンは、日本企業が得意なものでもあった。世界から大きな注目を集めた自動車産業で典型的に見られた「ケイレツ」は代表例である。
自動車の部品点数は多いため、部品メーカーとの間の知識のやりとりのためにそれぞれ專門の部署を組織化することはできない。そのため、それぞれの専門部署を組織化するのではなく、コミュニティを構築しているのである。自動車メーカー(アセンブラー)とそれまで取引関係を持っていない新規の部品メーカーは、単純な部品の納入から始まり、それぞれ競争し、技術力を高め、長い期間をかけて、アセンブラーの信頼を勝ちとると、製品の設計の段階から製品開発に関われるようになる。1次サプライヤーから、2次、3次と多くのサプライヤーが部品の供給コミュニティを形成している。
このシステムでは、長い時間をかけて、アセンブラーと部品メーカーは、それぞれの異なる知識をすり合わせ、獲得していくのである。この知識のやりとりの仕方は、大きく2つのメリットがある。まず、専門部署を介した集約的な知識のやりとりと比べると、多くの組織とコラボレーションできる。つまり、より多くの外部の経営資源を利用できるのである。2つ目のメリットとして、次に見るプラットフォームを介した知識のやりとりと比べると、創発性も高い点がある。
しかし、このやり方を機能させるためには、大きく3つの点に気をつけなければならない。第1に、コミュニティを構築するためには、時間がかかる。共同研究施設などを創り、同じ場所に組織を集め、創発性を期待したとしても、知識のすり合わせが起こるようなコミュニティとして機能するために時間がかかる。また、参加する組織の数が増加すると、コミュニティとしての共通の言語や行動の規範を確立するのにはさらに時間がかかる。また、それを保持し続けることが難しくなる。