次に、これを機能させるためには、そこに参加するインセンティブを維持し続ける必要もある。例えば、自動車におけるトヨタのケイレツが上手く機能するのは、そこに参加している組織の間に「トヨタのセリングパワー」に対する期待があるからである。そのような期待を参加者(あるいは潜在的な参加者)の間に醸成できなければ、コミュニティは機能しない。

 最後に、このコミュニティ型の知識のマネジメントにおいても、専門部署を介した集権的な知識のやりとりの場合と同じように、最終的な決定権を持つ組織のマネジメントが非常に重要になる。「みんなで良い知恵を出し合えば、良いものができる」といったマネジメントでは決してコラボレーションは上手くいかない。最終的に、セリングパワーを持つ企業のストップかゴーを決定するマネジメントが重要になる。ファイナル・セイ(最終決定権)を欠くマネジメントは決して機能しない。

(3)プラットフォームを介した知識のやりとり

 知識のすり合わせのあり方の3つ目のものは、プラットフォームを利用するものである。専門部署やコミュニティを介した知識のすり合わせでは、どのような知識がどのように外部の組織とやりとりされるかは、事前に決定されているものではなかった。むしろ、どのような知識が重要になるのかを事前にコラボレーションを行う組織の間で決定することができないために、専門の部門の組織化やコミュニティの形成がなされている。

 しかし、コラボレーションを行う組織の数が多くなると、それぞれの組織が持つ知識の体系が異なり調整のコストが大きくなる。また、多くの組織から生み出された多くの知識を取り入れる場合、その知識のすり合わせだけでなく、組織の信頼性などについても考慮にいれる必要がある。コラボレーションの相手の機会主義的な行動に対するモニタリングのコストもかかる。

 より多くの外部組織の知識を活用する場合、上述のコストを下げるためのマネジメントが必要となる。その1つのあり方が、知識のやりとりを行うプラットフォームを事前に用意しておくものである。組織間の知識のやりとりのインターフェイスを事前に標準化するものであるとも言える。以下ではこれをプラットフォーム型と呼ぼう。

 具体例を見てみよう。2008年からサービスを開始したアップルのApp Storeはこの代表的なケースである。アップルはエックスコードと呼ばれる統合開発環境を、アプリケーションのソフトウェアの開発のために無料で提供している。エックスコードを使えば、誰でもiPhoneやiPad用のアプリケーションを開発することができる。

 ここで重要な点は、アプリケーションの開発に際して、アップルとコラボレーターとなるソフトウェア開発者の間で知識のすり合わせを行う必要はないという点である。あるとすれば、ソフトウェア開発者がエックスコードについての知識を得る必要があるだけである。アップルは多くの組織に分散する知識を、自社の経営資源と組みあせて大きな価値を創るために、知識のインターフェイスを事前に決め、それを無料で公開しているのである。これによって、それぞれのパートナーごとに知識のすりあわせを行う必要性はなくなると同時に、多くの外部組織で生み出された知識を活用できる。外部の知識をインプットの時点で標準化することによって、その後の調整のコストを低減させるものであるとも言える。