日本の自動車産業の「ビッグワン」であり、ということは今日の日本経済全体を牽引している存在でもあるトヨタ自動車は、その足元が崩れ始める危うさを内包したまま、巨艦ならではの惰性で走り続けている。

 世界の市場で、そしてそこに投入するプロダクツに様々な危機の徴候が表れているのだが、トヨタ自身が「舵を切る」動きに巨艦の針路を変え得る可能性はまだ見えてこない。

 ここでトヨタがものづくり組織である限り、変化はそのものづくりのプロセスと、そこから生み出されるプロダクツにまず起こらなければならない。そのためには、20年以上にわたって目先の修正だけをパッチワークのように継ぎ足し、接ぎ合わせてきた結果、本質を見失いつつあるものづくりの方法論を、そして、その根源にあるべきものの考え方を、ここで一度「リセット」することが、今、必要だ。

 と、ここまでが前回のお話

「今」だけしか見ていないクルマづくりは停滞に陥る

 その「リセット」はどこから着手すればいいのか?

 「自動車とは何か」という根源的なところにまで立ち戻って、深く考えること。まずはここからだ。それしかない。

 しかしトヨタに限らず日本の自動車メーカーは、これが苦手だ。そういう思考を行う素地を、そしてそれを製品にまで展開するプロセスを作ってこなかったからだ。

 もともとクルマづくりは「人間と荷物を載せて、道を走り、移動する空間」を生み出す創造的プロセスである。しかも、同じものを作り続けることは決してない。その時々に社会が求めるものが変化し、それを実現して自動車の形にするための技術もまた変わってゆくからだ。しかも、人と組織の経験と知識の蓄積によっても、その内容は進化(あるいは変化、変質)してゆく。

 そしてつくり手側が常に考えなければならないのは、新しい製品の企画に着手した時から指折り数えて十数年かそれ以上先まで、そのクルマは社会の中でオーナーとともに生き続ける。だから「今」だけを見て製品をつくってしまうと、それが世に出た瞬間から「新しいクルマ」ではなく「今までのクルマ」であり、さらに生産と販売を数年間続ける中では「古いクルマ」になってしまうのである。

 今の日本車が陥っている停滞、そして製品力、商品力の低下は、まさしくこのネガティブスパイラルにはまりこんでいるからでもある。