ここしばらくの自動車産業界に関わるニュースの中で、個人的にいちばん気になっているのが「住友ゴム工業、グッドイヤー・タイヤ・アンド・ラバー社(以下、グッドイヤー)との協業・合弁事業を解消」である。

 私とタイヤとの関わりは、自動車を知りたくて飛び込んだ大学の研究室以来のもの。その出会いの幸運に、今になって思いを巡らす今日この頃ではある。なぜならば、タイヤは路面と触れ合う小さな「接地面」で摩擦力を生み出し、それがクルマの運動の全てを作り出す。しかしそのタイヤと路面の間でどのように力が生まれるのか、タイヤという構造体の中でそうした力がどう伝わってゆくかというミクロレベルの現象は、いまだ正確にとらえられていない。だから自動車を走らせるのは、実は相当に難しいのであって、しかし人間はそれを普通にやってのける。言い替えれば、自動運転がそう簡単には現実のものにならないのも、この「タイヤ」という存在の複雑さ、現象を感知・制御することの難しさによるところが大きい。

 駆け出しの雑誌記者だった私に、タイヤを理解し、評価する基礎を叩き込んでくれた某タイヤメーカーの開発者が語ったとおり、「タイヤは、黒くて、丸くて(時々、丸くならなくて苦労させられ)、よく分からないもの」であり続けているのである。

流れ作業ではタイヤはつくれない

 その一方で、タイヤ製造は大変な「装置産業」である。一般の人々がイメージする「大量生産の工場」、つまり整然とした製造ラインから次々に製品が流れ出してくるような現場ではない。同じデザインのタイヤであっても、サイズが異なれば全てが別の製品となる。

 タイヤづくりはまず様々なゴムを「練り合わせる」ところから始まる。次に、糸や細いスチールワイヤをびっしりとスダレ状に並べた表裏からゴムを貼り付け、それを何層か貼り重ねて筒状にし、これがタイヤの「骨格」になる。その上に路面と接する「トレッド(踏面)」になるゴムを押し出して成形した帯状ブロックを貼り重ねる。そして最後に1本ずつ金型を内蔵した「釜」に収めて加熱、ゴム素材に練り込んだ微量の硫黄が分子構造を安定したものに変える「加硫」反応を起こすのと同時に、トレッドの溝など表面の凹凸を生み出す。この反応・成形が完了すると「釜」が開き、湯気を立てる新品のタイヤが取り出されるのである。

 このプロセスの中で、同じデザイン・製品名のタイヤでもサイズによって製造設備が別ものになる工程がいくつもある。

 まずトレッド面となるゴムをその幅、厚みに合わせた帯状に押出成形する金型。骨格材や補強材もサイズによって幅や重ね方が異なり、それを巻き付けて成形する回転ドラム。そして何より最終成形と加硫を行う「釜」に収める金型は、タイヤサイズごとに別のものになり、しかも一度に1本しか収められないので、生産量が多い製品、サイズほど同じ金型を多量にそろえる必要がある。