(朝比奈 一郎:青山社中筆頭代表・CEO)
人が、肉体的、精神的、そして社会的に満たされて暮らす「ウェルビーイング」(well-being)が重視されるようになっています。
しかし、どうもウェルビーイングを目指すということになると、「働きすぎるのをやめて、バランスよい働き方にする」とか、「ブラックな職場を抜け出す」といった、心身の負担を軽くする方向の取り組みと思われがちです。最近、個人的に懸念しているのは、ウェルビーイングを支持する世論が、あまりに短絡的に、負担軽減という方向に流れ過ぎてはいないか、ということです。
プレッシャー・ゼロがいいことなのか
本当に、負担軽減=ウェルビーイングなのでしょうか。誰にでもすぐわかるのは、たとえば肉体的なウェルビーイングを考える場合、ランニングやスイミングなどで健康を維持するということです。適度な運動で心地よい汗をかくことがウェルビーイング的ですが、その実、ランニングやスイミングは身体に負担をかける行為でどこまでが「適度」か判断が難しいところがあります。
人によっては、限界に挑戦するような負担のかけ方がウェルビーイングとなります。少なくとも筋肉にある程度の負担をかけることで身体のさまざまな機能が刺激され、より強い負荷に耐えられる健康な身体になることは確かです。つまり、ある程度の負担をかけるということが体の健康にはよいことは自明です。
心も同じです。プレッシャーから完全に解放された状態が健康かといえば違います。目標を持ち、気持ちにハリを持たせて頑張ることもウェルビーイングに繋がります。勉強して脳を活性化させ、新しい知識を得る喜びを得ることもウェルビーイングです。要するに真のウェルビーイングの達成には、単なるリラックスだけでなく、適度な緊張状態やある程度の負担をかけるという両方の作用が必要ということです。バランスが鍵です。