もう「川勝知事のせい」という言い訳はできない

 川勝知事の辞職でリニア問題が前進するとの憶測も広がるが、山梨県・長野県の他にも工事が進んでいない工区はある。例えば愛知県の坂下西工区と名城工区、東京の北品川工区などは工事が長らくストップしていた。3つの工区は川勝知事が辞任を表明した直後の4月8日から調査掘進を再開した。

 調査掘進とは本格的な掘進を始める前に工事の安全対策を実地確認する作業だが、変位や工事で発生する振動といったデータも同時に計測・収集する。現段階でようやく調査掘進が再開し、その結果を見なければ本格的な掘進作業に移れない。

 この時期に調査掘進が始まったことを踏まえれば、静岡工区の遅れとは関係なしに2027年の開業ははじめから難しかったのではないかと疑問を抱かざるを得ない。

 さらに、長野県では工事で発生する残土処理の問題が解決していない。昨年には岐阜県御嵩町でリニア工事によって発生する残土の受け入れ拒否を公約に掲げた町長も誕生している。

 リニアの建設で発生する残土には、有害な重金属を含む要対策土もある。これらの受け入れ先を探すことは簡単ではない。残土の受け入れ拒否を掲げた町長が誕生したことにより、リニアの工事スケジュールは変更を余儀なくされる可能性もある。

 このままでは再度の開業延期も考えられる。それを回避するには、今以上に沿線の自治体や住民と向き合って話し合いを重ねると共に、開かれた情報公開が求められるだろう。

 これまで我が道を行くといった姿勢を貫いてきたJR東海が、そうした意識と姿勢にチェンジできるか否か。川勝知事のせいという言い訳ができなくなったここからが、JR東海の正念場と言える。

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【小川 裕夫(おがわ・ひろお)】
フリーランスライター。1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経て、フリーランスのライター・カメラマンに転身。各誌で取材・執筆・撮影を担当するほか、「東洋経済オンライン」「デイリー新潮」「NEWSポストセブン」といったネットニュース媒体にも寄稿。また、官邸で実施される内閣総理大臣会見には、史上初のフリーランスカメラマンとして参加。取材テーマは、旧内務省や旧鉄道省、総務省・国土交通省などが所管する地方自治・都市計画・都市開発・鉄道など。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『東京王』(ぶんか社)、『全国私鉄特急の旅』(平凡社新書)、『封印された東京の謎』(彩図社文庫)、『路面電車の謎』(イースト新書Q)など。共著に『沿線格差』(SB新書)など多数。