一度は考えてみてほしい。あなたが車や家などの高額商品を買う時、どうするだろうか。車であれば、まずはカタログを見るだろう。家であれば、モデルルームを見たり内見をしたりするはずだ。実際に自分が所有した時のことを考え、実物を見たり触ったりしながら、その先の生活を想像するのではないだろうか。高額な買い物になればなるほど、現物を見ないで決断することは難しいはずだ。

 それなのに、政治の場合はこの常識が全く適用されない。多くの人が投票所前に設置されたポスターや、全戸配布される選挙公報などの限られた情報をもとに「見たこともない候補者」「会ったこともない候補者」に投票していることを私は知っている。

 選挙の取材をしていると、「選挙に興味がない」「選挙に行かない」という人にも遭遇する。「行かない理由」を聞いてみると、多くの場合、こんな答えが返ってくる。

「自分には一票しかない。行っても行かなくても変わらないと思うから行かない」
「入れたいと思う人がいないから投票には行かない」

 本当にもったいない。選挙で投票に行かず、自分の意見表明の機会を捨てることは「多額のお金の使い道を白紙委任すること」にほかならない。

 もちろん、選挙に行くのも行かないのも有権者の自由だ。しかし、その前に知っておいて損はないことがある。それは「あなたの一票」が持つ意味だ。

 私たちが納めた税金の使い道は、選挙で選ばれた政治家たちが決めていく。そう考えたとき、あなたが投じる「一票の価値」をお金に換算したことがあるだろうか。

 一票の価値を計算する方法はいろいろあるが、わかりやすいものを一つ提示したい。「一票の価値=国の予算×国会議員の任期÷有権者数」というものだ。これを直近に行われた国政選挙(2022年7月の参議院議員選挙)に当てはめると次のようになる。

「国の予算(107兆円)×任期(6年)÷有権者数(1億501万9203人)=611万3168円」

 つまり、あなたが投じる一票は「611万3168円」の行方を決める意思表示だ。

 この計算式は、あなたが住む自治体の選挙でも使える。東京都知事選挙であれば「東京都の予算(8兆4530億円)×知事の任期(4年)÷有権者数(1152万4583人)=293万3902円」。市区町村で行われる選挙の場合、あなたの一票の価値はおおむね200万円程度だと考えていい。そんななか、実際の政治家を見ずに投票先を決める人は、よほど余裕のある人だと私は思っている。

全候補者を見れば政治に詳しくなれる

 私が全員取材を続ける理由は他にもある。全候補者を比較検討すれば、「明らかな失敗」の確率を減らせるからだ。

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