臨海地下鉄が開業したら東京BRTはどうなるのか?

 鉄軌道を新たに開業させるには、計画から工事までに最速でも10年はかかる。その間、まったく公共交通を整備しないわけにもいかない。

 東京BRTは鉄道のように線路や駅舎といった大規模な施設を必要としないため、需要の変化に合わせて柔軟にルートを設定できることがメリットでもある。いったんBRTを整備し、需要を読みつつ鉄軌道の計画をじっくりと組み立てていく方針なのかもしれない。

 実際、小池百合子都知事は2022年11月の定例会見で、東京駅と有明・東京ビッグサイトの約6.1kmを7駅で結ぶ“臨海地下鉄”の構想を明らかにした。同計画は以前から東京都が有識者と検討を重ねていたものだが、発表時点では仮の計画としながらも、その区間は東京BRTのルートと重複している。

東京BRT国際展示場駅のロータリーに停車中の東京BRTの連節バス(筆者撮影)

 臨海地下鉄が発表された通りに建設された場合、重複している東京BRTがどうなるのかは明確に示されていない。東京BRTと臨海地下鉄が並走すれば、利用者の奪い合いが起きることは必至だ。それは共倒れリスクを生んでしまうことにもなる。東京都にとって、それは絶対に避けたい事態だろう。

 高齢者にとって使いやすい公共交通は乗り降りが容易な東京BRTだが、公共交通を取り巻く環境を鑑みると、東京BRTと臨海地下鉄どちらを残すのかという二者択一を迫られた場合、東京BRTを残すという選択は考えづらい。

 臨海地下鉄の最寄駅から東京BRTに乗り継ぐといった形で残すという考え方もあるだろうが、そうなると今度は東京BRTのメリットである「定時性」「速達性」「輸送力」はそれほど必要なく、一般の路線バスでも十分に賄える可能性が高い。また、臨海地下鉄と東京BRTを併存させ、ゆりかもめを廃止するというウルトラCがあるかもしれない。

 2020年から華々しく運行を開始し、このほど選手村ルートという注目エリアでも運行されることになる東京BRTだが、今後の見通しは湾岸エリアのタワマン次第という不透明な状況にあることは確かだ。

【小川 裕夫(おがわ・ひろお)】
フリーランスライター。1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経て、フリーランスのライター・カメラマンに転身。各誌で取材・執筆・撮影を担当するほか、「東洋経済オンライン」「デイリー新潮」「NEWSポストセブン」といったネットニュース媒体にも寄稿。また、官邸で実施される内閣総理大臣会見には、史上初のフリーランスカメラマンとして参加。取材テーマは、旧内務省や旧鉄道省、総務省・国土交通省などが所管する地方自治・都市計画・都市開発・鉄道など。著書に『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『東京王』(ぶんか社)、『全国私鉄特急の旅』(平凡社新書)、『封印された東京の謎』(彩図社文庫)、『路面電車の謎』(イースト新書Q)など。共著に『沿線格差』(SB新書)など多数。