東京BRTは臨海地下鉄開業までの“つなぎ”か

 筆者は東日本大震災の被災によりBRT転換した大船渡線や気仙沼線、さらに2013年に日立電鉄から転換したひたちBRTにも乗車し、取材した経験がある。また、東京BRTも2020年10月のプレ運行(第一次)や2023年4月からのプレ運行(二次)を開始した際にも乗車・取材している。

 プレ運行時は、住民に浸透していなかったこともあり利用はきわめて限定的だと感じたが、運行開始から数カ月後の週末には家族連れが多く利用している光景を目にし、少しずつ東京BRTが周辺住民の足になっていることを肌で感じた。

 東京BRTの持ち味でもある「定時性」「速達性」「輸送力」は、都バスなどの路線バスに優っている一方で、鉄軌道と比べるとすべての面において劣っている印象も否めなかった。近年はバス・鉄道どちらも運転士不足が深刻化しているので、運行本数を増やすことが難しい。そのため、「待たずに乗れる」という高頻度運転は難しくなっている。運行回数が減ることでラッシュ時は積み残しといった問題も抱えている。

 それらを考慮すると、BRTよりも輸送力が大きい鉄軌道のほうが安定した運行体制を築くことができる。

 一昔前は不採算路線の鉄道を廃止して、バスへと転換するのが一般的な潮流だった。しかし、自治体も公共交通を維持するために、鉄道を重視する傾向が強まっている。そうした鉄道重視のムードへと変わりつつあることは、東京都も十分に理解していることだろう。それでも湾岸エリアにおける公共交通の需要が未知数のために、莫大な建設費を投じられないといった事情を抱える。

 ただ、東京BRTは臨海地下鉄の開業までの“つなぎ”という見方もできる。開発が著しい晴海エリアには、2024年1月から入居を開始した晴海フラッグだけではなく、「ザ・豊海タワーマリン&スカイ」、「グランドシティタワー月島」、2028年には月島地区に総戸数744の48階建てのタワマンも竣工を予定している。

 規模にもよるが、タワマンが一棟できると人口は500~1000人単位で増えていく。湾岸エリアのタワマンは主に夫婦共働きのパワーカップルが購入することを想定しているので、夫婦どちらも都心部へと通勤することになる。つまり、タワマンが一棟できるだけで通勤時間帯の混雑率は大きく変わるのである。この需要予測は立てづらく、自治体の担当者も頭を抱えている。