なぜ鉄軌道ではなくBRTの整備を選択したのか

 東京都は明治期から湾岸エリアの開発を推進してきた。一般的に「お台場」と通称されるエリアは昭和期から本格的に造成を開始したが、バブル景気が崩壊した後に東京臨海新交通臨海線(ゆりかもめ)や東京臨海高速鉄道(りんかい線)といった鉄道網が開業した。

 一時期は開発の遅れもあったが、その後の湾岸エリアは発展が目覚ましい。2000年代から都心回帰が顕著になり、豊洲や月島エリア、そして「お台場」は急激に人口を増加させていった。

 こうした社会情勢も後押しして、湾岸エリアに公共交通の必要性が高まった。ゆりかもめは新橋駅で山手線・京浜東北線・東海道本線、さらには東京メトロ銀座線や都営地下鉄浅草線と接続しており、都心部と「お台場」とを結ぶ鉄道として多くの需要を創出している。

 本来、都心部における公共交通は地下鉄などの鉄軌道が望ましい。なぜなら、鉄道は定時性・速達性・輸送力にもっとも優れているからだ。しかし、鉄軌道は莫大な建設費がかかるうえ、いったん整備してしまうと、路線の変更や廃止が難しい。もっとも、日本全体が人口減少、特に生産人口の減少傾向が続き、通勤・通学需要も縮小している。

 東京都も近い将来は人口減少へと転じることが明確になっているが、いまのところ人口増を続け、特に湾岸エリアは発展を遂げている。続々とタワーマンションが建設されているため、公共交通を整備しなければという声があがるのも当然だろう。

晴海フラッグマンションが建ち並ぶ「晴海フラッグ」(写真:共同通信社)

 タワマンラッシュに沸いている湾岸エリアは住民も増えて需要は堅調だが、逆に言えばタワマン一棟で動線が急激に変化してしまう事態も起きうる。そのため、鉄軌道よりもコストがかからずに導入でき、柔軟に路線を変更できるBRTが湾岸エリアの新しい公共交通として選択されたのである。