第1に、ICカードがあれば、いずれの扉からも乗降できるセルフ乗降である。日本では路面電車やバスは乗り降りの際に乗務員の前で運賃を支払うが、欧米では、乗務員のチェックがないセルフサービスが一般的である。信用乗車とも呼ばれるもので、これを採用すると、利用者は入口や出口を気にすることがない。乗降時間が短縮されるだけでなく、どこでも乗れるという気楽さがある。日本では不正乗車を恐れてほとんど導入されていないが、欧米では、時折検札を行い、不正乗車には高額の罰金を科すことで対応している。

 第2は、乗り換え結節点の整備である。LRTは、街の軸としての役割は果たすが、街全体を面的にカバーできるわけではない。自家用車を使う人が安心してLRTに乗り換えることのできるパークアンドライド用の駐車場、バスや地域内のデマンド交通(予約型の運行形態の輸送サービス)で来る人のための接続が重要になる。

 ライトラインでは、駐車場約150台、駐輪場約500台が整備され、乗り換え停留場には待合室やトイレも設置された。バスやデマンド交通などに乗り継ぐ場合、LRTとは別に料金がかかるが、バスは100円、デマンド等の地域内交通は200円割引が適用され、さらに日中であれば、バスの上限運賃制度により、市内のどこから乗っても500円を超えない。

 第3は、再生エネルギーの活用である。ライトラインの車両は1編成で定員160人と、電気による大量輸送という点で環境にやさしいが、その電気を100%再生可能エネルギーでまかなっていることも特筆すべき点である。具体的には、宇都宮市が51%を出資する宇都宮ライトパワー社による太陽光やバイオマス発電で、必要な電力を調達している。2050年のカーボンニュートラルに向けた取り組みとして、きわめてわかりやすい。

 第4に、市民参加である。政争の具となって迷走した経緯があるだけに、2010年代、行政は、市民との対話を重視し、市民参加を心掛けてきた。オープンハウスでの広報のほか、市長が各地で千回を超えるとも言われる説明会をこなしてきたということもあるが、興味深いのは、市民の投票で車両デザインや車両名、停留場名を決めてきたことである。

「ライトライン」は、雷の多い宇都宮市を「雷都」として掛けたうえ、「(未来への)光の道筋」との意味もこめられているという。筆者は、ライトラインの車内で、電停の案内放送を聞く親子が「投票した名前になったね」と嬉しそうに話している姿をみた。

宇都宮市で開かれたLRTのイベントは、たくさんの家族連れなどで賑わいを見せた宇都宮市で開かれたLRTのイベントは、たくさんの家族連れなどで賑わいを見せた

ライトラインがもたらす街と人の変化

 ライトラインは、順調にスタートしている。開業直後のフィーバーを過ぎた3カ月目(10月26日~11月25日)の数字によると、平日はほぼ需要見込み通りの1日約1.3万人、土日祝日は見込みの2倍以上の1.1万~1.2万人が利用した。開業直後は現金利用者が多く、運賃支払いで遅延も見られたが、一時的な混乱も落ち着き、日中の買い物等の利用も定着してきた。通勤定期利用者も着実に増えている。

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