中国が7nmの半導体量産は衝撃的だったが・・・

 2023年9月4日、米通信社ブルームバーグは中国の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)の最新スマートフォンに中国産7nm(ナノメートル、1nmは10億分の1メートル)先端半導体が搭載されていると報じた。

 同報道の内容は次の通りである。

 ブルームバーグ・ニュースから委託を受けたカナダの調査会社テックインサイツが、ファーウェイの最新スマートフォン「Mate 60 Pro」(8月末発売)を分解したところ、同端末には中国の半導体受託生産会社、中芯際集成電路製造(SMIC)が製造した新たな「麒麟9000s」チップが搭載されていた。

 テックインサイツによると、このプロセッサーはSMICの最先端7nmテクノロジーを初めて使用しており、中国政府にとっては国内半導体エコシステム(生態系)の構築に向けた取り組みで一定の前進を見せたことを示唆している。

 この報道は、日米欧の政界や産業界に衝撃をもたらした。

 なぜなら、米国のバイデン政権は2022年、14nm半導体への中国のアクセスを阻止するための輸出規制を強化していたからである。

 当然、ファーウェイとSMIC両社は規制対象にもなっていた。

 バイデン政権は、なぜ14nm以下を輸出規制したかと言えば、当時、中国製半導体の最も高い性能のものは、14nmであったからである。

 ところが、SMICが7nm半導体の製造に成功したのである。

 7nm半導体の製造技術は、世界でも半導体受託生産最大手のTSMC(台湾積体電路製造)、韓国サムスン電子、米インテルの3社しか持ち得ていない。

 ちなみに、TSMCが2024年末の本格出荷を目指して、熊本県菊陽町で建設を進めている半導体新工場の回路線幅は、最先端ではない10~20nm台である。

 これより回路線幅の小さい7nmチップを中国がすでに自国生産したことは大きな衝撃であった。

 元々、対中半導体輸出規制は有効であるという意見と有効でないという意見の相反する2つの意見があった。

 有効であるとする意見は、製造装置や設計ソフトにおいて中国は対外依存度が非常に高いので、厳格な多国間対中輸出規制により中国国内の先端半導体開発・製造が困難になるというものである。

 一方、有効でないとする意見は、米国の規制を受けて、中国政府は半導体産業への支援を拡大するとともに台湾の高度な半導体技術者の獲得などを通じて、自国半導体産業の強化を図り、結果、先端半導体の国産化が早期に実現するというものである。

 しかし、今回の中国の7nm半導体製造に成功により、米国の対中半導体輸出規制が失敗であったと結論付けるには尚早であろう。

 まず、中国がどのようにして7nm半導体製造に成功したかである。

 カナダの調査会社テックインサイツの解析によると、7nmチップの製造には最先端のEUV(波長1~100nmの極端紫外線)露光装置ではなく、前世代装置のDUV(波長200~300nmの深紫外線)露光装置で多重露光させる独自の技術で実現させたとみている。

 EUVおよびDUV露光装置については後述する。

 これは「ダブルパターニング」技術と呼ばれる。ダブルパターニング技術は「液浸露光」技術の延命技術としてよく知られた技術である。

 現に、TSMCは、2018年にDUV露光装置を用いて7nmチップの「A12」を量産し、アップルの「iPhone XS」に搭載した実績がある。

 したがって、今回のことは予想されたことであったと言える。

 とはいえ、米国の対中輸出規制はSMICの微細化を止めることができなかった。

 そのことから、米国の輸出規制は失敗に終わったと見る向きもあるが、筆者は、今後、米国が一段の規制強化に踏み込み、中国のさらなる微細化を阻止するであろうと見ている。

 半導体に関する中国への投資を規制しようとするなど規制強化の動きはすでに始まっている。

 本稿では、半導体を巡る米中覇権争いの現状と見通しについて述べて見たい。

 初めに、バイデン政権の半導体輸出規制に関連する主要事象について述べ、次に、中国が7nm半導体生産に用いたダブルパターニングについて述べ、次に、対中輸出規制の対象になるASMLのDUV露光装置について述べ、最後に、米政府が半導体の対中輸出規制をする理由と中国の対応について述べる。