「代替手段の議論は誤解を与える」

 ローカル線の存続か、廃線か。

 その議論はどうしても、廃線が現実に迫っているということにスポットライトが当たりがちである。だが、近江鉄道線をめぐる任意協議会はその第1回目において、あくまでフラットなスタンスであることをはっきりと内外に示すシーンがあった。

 それは、鉄道廃線の代替手段に議論が及んだ場面だった。

 廃線を選択した場合、代わりの交通手段となるバスやBRT(=Bus Rapid Transit、バス高速輸送システム)について、地公研が紹介した。

 これに対し、出席した自治体の委員から「そもそも、鉄道存続について検討する場において、廃線と代替手段の話はふさわしいテーマではない」「鉄道の代替手段を議論していると市民に誤解を与える」「鉄道からバスに転換するのは約6割程度ということは、残りの4割はどのようにして移動するのか」「バス代替は導入費用だけでなく、降雪時の対応や、国道8号の慢性的な渋滞を考えるとリアリティがない」といった意見が次々と出された。

鉄道やBRTなど各モードの特徴(国土交通省「道路空間を活用した地域公共交通(BRT)等の 導入に関するガイドライン」より、2022年9月)鉄道やBRTなど各モードの特徴(国土交通省「道路空間を活用した地域公共交通(BRT)等の 導入に関するガイドライン」より、2022年9月)
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 代替手段に関する話題がナンセンスだったわけではない。むしろ、バスやBRTに転換する場合の導入費用や運営費用をこの局面できちんと理解しておくことは、現行の鉄道を維持する費用の相場観を知る上でも極めて重要なことだったといえる。

 地公研の母体である両備グループ(岡山県)は、実際にバス会社や鉄道会社を経営している。地公研が協議会で示したシミュレーションはその経営経験を活かし、代替バスなどの初期投資額と年間運行経費、必要車両台数と購入金額、ドライバーの人件費、といった項目について緻密に算出されていた。

 地公研の見立てでは、代替バスの初期投資額は全線で約30億円、年間運行経費約11億円と算定されていた。初期投資額には、車庫用地代や車両購入費といった項目が含まれる。この30億円は極めて大きな額だ。

 年間運行経費11億円は、一見すると代替バスの方が割安なようにみえる。2017年度の近江鉄道の営業費用は約15億円で、これに比べれば、代替バスは7割ほどに抑えられるからだ。

 しかし、一部でも鉄道が存続する場合はその区間が二重投資となり、経費の削減幅は縮小される。また、代替バスへ鉄道から転換する利用者が6割程度と推定され、収入は4割減収と想定されていたため、収支の大幅改善までは見込めなかった。

 さらに今日的な目からみれば、バスのドライバー不足は深刻化している。このとき必要ドライバー数は50人と算出されているが、足元の状況では、新規で50人のドライバーを採用することは極めて高いハードルとなっていただろう。