米国でフォードやGMなどテスラの充電施設を利用する自動車メーカーが続出(写真:AP/アフロ)

(井元 康一郎:自動車ジャーナリスト)

 世界で林立している電気自動車の急速充電規格に大きな変化が起こっている。5月にフォードがライバルであるテスラのNACS規格に準拠すると表明するや自動車メーカー各社が追随。1企業の規格がデファクトスタンダードを取りつつあるのだ。今のところ北米限定の動向だが、展開次第ではヨーロッパ、日本に飛び火する可能性もある。

続々とテスラ規格NACSにシフトする自動車メーカー

 バッテリー式電気自動車(BEV)の普及に必要不可欠なインフラのひとつが、短時間でバッテリーに大量の電気を補充できる設備、急速充電器だ。その重要性の高さから日本、アメリカ、ヨーロッパ、中国と、それぞれが規格を立ち上げ、自らがグローバルスタンダードとならんと覇を競っている。

 その急速充電規格を巡り、今年に入って変化が起こった。アメリカで5月、フォードがアメリカの標準規格とされていたCCS1からBEV世界大手のテスラが作った規格、NACSにシフトすると発表したのだ。

 フォードの発表のインパクトはきわめて大きく、翌6月にはゼネラルモーターズ、7月にはメルセデスベンツ、日産自動車などがこれに追随。9月にもホンダ、イギリスのジャガーと、NACSへの移行を表明するメーカーが続々と現れている。

「アメリカにおけるテスラ規格への移行の動きは正直、驚きました」

 こう語るのは、日本発の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)の規格づくりに関わった元自動車メーカーのエンジニアである。

「アメリカではCCS1というスタンダードがすでにある。昨年テスラが自社規格をNACSとしてどの自動車メーカーも使えるよう仕様を公開したときも驚きましたが、他メーカーはテスラスーパーチャージャー(テスラの急速充電器)も使えるようアダプターを用意するといった対策を行いつつ、CCS1主体を維持するのではないかと思っていました。

 しかし、結果はCCS1を捨ててNACSに乗り換えという道をフォードが決断。他メーカーもあっという間にそれに続きました。クライスラーを擁するステランティスは検討中、トヨタ自動車は静観を決め込んでいますが、アメリカでEVビジネスを行う以上、嫌でもNACSを採用せざるを得なくなるでしょうね」

テスラのミッドサイズセダン「モデル3」の急速充電方式はテスラ独自規格。昨年秋、NACSとして規格が開放されたのを機に他メーカーが続々と北米での採用を決めた(筆者撮影)