戦争だから休んではならない?

 もう1つ、意外に大きな市場がレクリエーションである。戦争が続いているから、本当に気を緩めて休める機会は少ない。そのなかで「癒し系」「プチ休み」と言えるような商品が売れている傾向がある。

 例えば、3時間だけ休むという商品がある。軍隊から休暇で帰ってきた人向け、また停電や空襲警報でいつも神経が張り詰めていて休めない人に向けて、安心して休めるパッケージを提供するビジネスである。3時間でキーウの街をめぐるツアー、マッサージのパッケージ、サウナ、マニキュア、小さな映画館の貸切サービスなどだ。もう少し長い時間だと、地方への日帰りツアーも人気である。

 いろいろな商品が提供されていても、やはり私たちには戦争のときに休んではならないという思い込みがある。しかし、戦争のときでも心が燃え尽きてしまわないために、気分転換をしたり休んだりする必要があると心理学者も強調している。そこに罪悪感を覚える必要はないのだ。だがほとんど誰もがそのような思い込みを持っているため、メディアや心理カウンセラー、また有名人が自分の経験について語りながら、その社会規範を変えようとしている。

 戦争中に笑ってはならない、休んではならない、また旅行などを楽しんではならないと思っても、それは誰にもプラスにならないし、戦争にも勝てないと最近よく言われている。まずは自分の心身をしっかりメンテナンスする必要がある。戦争という日常だからこそ、日々の生活を充実させるべきなのだ。

 もしも罪悪感が消えない場合は、自分よりも大変な状況に置かれている人に対して寄付をするのがよいだろう。ウクライナでは周囲にそのような人がたくさんいる。軍隊に志願した同僚、友人の息子、知り合いの夫など。また1人暮らしの高齢者、障害を抱えている人も楽な状況ではないだろう。

『キーウの遠い空 戦争の中のウクライナ人』(オリガ・ホメンコ=著、中央公論新社)